Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2020.07.12 TOHO MUSICAL LAB. 「CALL」/「Happily Ever After」:劇場を拍手で満たす その日まで

2020年6月末に突如発表された、東宝主催の実験的ミュージカル企画「TOHO MUSICAL LAB.」。

 

劇場でお客さんを入れての公演が困難な状況が続いていたため、完全無観客配信で一夜限りのオリジナルミュージカルをやってみよう!という試みでした。

 

なんと生田絵梨花ちゃんと海宝さんが共演(しかも二人芝居!!)、そして何気に応援している木村達成さんももう1本の作品に出演されるとのことで、チケットが取れるかの心配をすることもなく、アーカイブでゆっくり拝見いたしました。

 

上演されたのは、演劇や劇場が無くなった世界で静寂に向かって歌うガールズバンドを描いた「CALL」と、嫌な現実から逃げて夢の中で出会う男女を描いた「Happily Ever After」の2本。

それぞれ30分程度のミニ・ミュージカルで、(しっくりくる、こないはあったにせよ)役者さん同士の距離を適度に保った演出が付けられていました。

 

鑑賞後は、【劇場で】観劇することの意義を、改めて考えさせられました。ちなみに後ほど細かく書きますが、個人的には圧倒的に「CALL」のほうが好きでした。「Happily Ever After」は、いくちゃんと海宝さんだったから最後まで観られたかな…。

 

 

「CALL」(妃海風田村芽実木村達成

 ・冒頭から中盤までは結構スローテンポで進み、楽曲もラップが入ってくる感じが個人的にはあまり受けつけなくて、うーん好きになれるかな~という印象でしたが、中盤で木村さんが演じるドローンの「ヒダリメ」が出てきてからの展開がすごく好きでした。SF短編小説にこういう話ありそう。

 

・何らかのきっかけで「演劇」や「劇場」という概念がなくなった世界で、「誰も聴いてくれないなら誰にも聴かせてあげない」と、無人の場所で歌う三姉妹のバンドが主人公。この日はかつて「シアタークリエだった劇場」で歌うことに。もちろん誰も聴いてくれるお客さんはいないので、途中から長女と次女が、楽屋に残っていた衣装を持ってきてファッションショーを始めたりとかなり自由。取り残された三女が、誰もいない客席に向かって呼びかける…と、そこに片方の翼が壊れたドローン「ヒダリメ」が現れます。彼は昔、シアタークリエで色んな公演を記録する役目を担っていたけれど、劇場がなくなってしまった上に壊れてしまったため、お役御免状態。「演劇」や「劇場」にまつわることを何も知らない三女に対して、ヒダリメはシアタークリエで自らが記録した思い出を語ります。最後は三姉妹とヒダリメで一緒に歌って盛り上がる…といった物語でした。

 

・まず「今のこの状況」を、ものすごく上手く盛り込んだお話だと思いました。舞台上で役者さんが歌を歌ったり踊ったりお芝居をすることに対して、お客さんが送る拍手、満員の客席、劇場で生まれる熱気。ほんのちょっと前まで【当たり前】だったことが、全く当たり前じゃなくなったからこそ、劇場がとてもいとおしくなるセリフがたくさん散りばめられていました。

 

・演劇も劇場も、拍手すら知らない三女が、ヒダリメに問いかけるセリフと、それに答える彼のセリフがとても印象的でした。

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「良い歌を聞いたらどうして【拍手】したくなるの?」

「……感謝を表してるのかも」

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ミュージカルを見る時、1曲終わるごとに劇場いっぱいに鳴り響く拍手。「拍手する意味」なんて考えたこともなかったんですが、そんな基本的なことにハッと気づかされるセリフでした。

 

・あと「拍手って星みたい」って表現がすごくすごく素敵で…!1人1人の拍手が合わさって劇場いっぱいに広がる様子を、これほど的確に表した言葉は他にないんじゃないかな…。

 

・「無観客」であることを逆手にとった「客席でのお芝居」も、「誰もいない客席」というネガティブな要素を、見事にポジティブに変身させていて、個人的にとても好きでした。普通にお客さんを入れてたら、あのお芝居はできないもんなぁ…(カメラマンさんが大変そうでしたが)客席(ドローン)から見た舞台の目線も入れてくれていて、それもすごく工夫されてていいなと思いました。

 

・かつて劇場で公演を記録していたドローン役(!)に木村達成さん。主に作品の後半のみの出演でしたが(本当に全然出てこなくてあれ?ってなりましたw)、やっぱり彼のお芝居がとても好きです…!初めて「ロミジュリ」で見た時から、特にセリフの節回しがすごく好みな役者さんです。人を惹きつける天性の才能を感じますし、どんな役を演じてもそつなくこなしてますし…(「ファントム」はかなり苦労したようですが)

今後も色んな役で見てみたいですし、映像作品でもぜひ見てみたいです。

 

 

Happily Ever After」(生田絵梨花/海宝直人)

・脚本を担当した方が、もともといくちゃんと海宝さんのファンで、2人にオファーしたら受けてもらえたからってことで実現した作品だそう。脚本も2人に合わせてあてがきしたとのこと。

 

・……正直言って何を伝えたいのかいまいちつかめず、ただただ困惑して終わってしまった印象です。「CALL」が期待以上に良かったせいか、ふわふわした感じがより浮き彫りになっていたような。

 

・うーーん??と思ってしまったのは、役者さん同士の物理的な距離の取り方を、完全にセリフにしちゃってたこと。海宝さんがいくちゃんに近づこうとすると、いくちゃんが「来ないで!!!近づかないで!!!」って言っちゃうんです。で、その理由が「なんとなく、これ以上近づいちゃいけない気がしたから」…えーーー何それ理由になってないよ~~。

ちなみに「CALL」では、それぞれがちょっとずつ離れてお芝居していて、特にセリフで離れなきゃ的なことは言っていませんでした。もしセリフにするなら「なんとなく」じゃなくて、きちんと理由をつけた方が良かったのでは…世界観に合わせるとしたら「夢から覚めちゃいそうだから」とか?

 

・そして登場する2人のキャラクターも、言い方が悪いですが直球ストレートに言うと「めんどくさい」でした。いくちゃんと海宝さんは、どちらもファンタジーな世界観が比較的似合う役者さんなので、見てて違和感はなかったんですが、キャラクターに共感できないのはしんどい…。

 

・ダンサーさんも…素敵でしたが必要あったのかな…。2人芝居だと間が持たないからなのか、「踊り」もないとミュージカルっぽくなくなるからなのか、個人的にはこの作品には必要なかったんじゃないかな~と思いました。

 

・良かったところはただ1つ!海宝さんといくちゃんの共演をまた見ることが出来たこと!!!!!レミゼでは歌のやり取りのみだったので、2人のセリフでのお芝居は新鮮でした(冒頭のセリフのみの夫婦喧嘩は、夫婦感全くなかったけど!)

本来であればカーテンコールとなる部分で、2人が楽しそうに♪Around the World♪を歌っている姿だけでご飯3杯いけます(真顔)またいつか共演している2人を、今度は生の舞台で観られたらいいなぁ。