Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2021.6.25 NODA・MAP 第24回公演「フェイクスピア」ソワレ公演:コトノハの着陸点

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※ネタバレしておりますのでご注意ください。この作品は、何も知らずに見るのが正解です(多分)

※未見の方は、ぜひともこれから予定されているWOWOWの放送を見てください(切実)

※あらすじとか一切書いてないので、未見の方はこの記事だけ読んでもちんぷんかんぷんかと思います。

※考察は一切できない人間なので、浅い感想しか書いてません!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年末に観た「チョコレートドーナツ」以来の演劇作品。

 

天保十二年のシェイクスピア」の後、一生さんはしばらくまた舞台はやらないんだろうな~と勝手に思っていたところの「フェイクスピア」上演決定。ほんの1年と少しで、また生のお芝居が見られるなんてー!と、発表されたときはかなり嬉しかったです。

 

さらに、NODA・MAPは以前からすごく気になる存在(?)で、特に松たか子さんと広瀬すずちゃんが出演されていた「Q:A Night at the Kabuki」が非常に気になっていたものの、チケット取れないんだろうなぁ…と諦めていました。

 

今回は一生さんご出演とのことで、NODA・MAPも一生さんも一緒に楽しめるなら一石二鳥じゃん!?と、気合いを入れて2回分のチケットを確保しました。

 

今回の席は、劇場のど真ん中。舞台からの距離もほど良く全体がしっかり見えて、まっすぐ目の前が舞台のセンターでした。

 

前列に座ってたカップルの観劇マナーがかなり悪く、彼女はほぼ全編にわたって前のめりで観劇、後半は疲れたのか、ときどき彼氏の肩に頭をもたせかけていました。彼氏は終始退屈そうな様子。さらに2人して、上演中に堂々とペットボトルのお茶を飲むという…(唖然)

 

上演中話すことはありませんでしたし、前列との段差があったからか、幸いものすごく視界を遮られることもありませんでした。とはいえ、観劇を楽しんでる様子もなかったので、彼らは一体何を目当てで観に来たんだろうか…。誰かのファンというわけでもなさそうでしたし、とても不思議なお客さんでした。

 

 

さて、全体的な感想です。

構成が恐ろしいほどうまくできていて、よくわからないけど何となくわかる、という不思議な世界観でした。純粋に面白かったです。

 

終演後は、役者さんたちのあまりの熱演っぷりに大感激して、そのことに対してはスタンディングオベーションで拍手を送りました。

 

が、一方で「これ、面白かったって言ってもいいのかな」という、もやっとした後味も残りました。

 

内容について、野田さんご本人が「不謹慎だとわかっている」というニュアンスのことを宣伝チラシに書かれているように、正直この題材をああいう風に使うことに、怒る人がいたっておかしくはないと思います。

 

開幕前は、あらすじについての情報がほとんどなく、開幕後もSNS上ではネタバレを避けたようなぼんやりした感想が並んでいました。

 

けれど、その中に「頭上げろ」「頭下げろ」という言葉があり、「あ。もしかしたら日航機墜落事故の話なのかな…?」と、予想はつきました。

 

そして予想通り、あの事故をモチーフにした作品でしたが、当時私はまだ生まれてもいないため、自分でもよく気づいたな…と観劇後に思いました。

 

幼い頃ドキュメンタリー番組か何かで、このボイスレコーダーの音声を聞いた記憶があり、そのときに「頭上げろ」という言葉を聞いていたのだと思います。

 

「この人は、あと少しで死んでしまうんだ」とわかっている人の声を聴くのは、事故当時に生まれてなかった私にも、相当なインパクトを残しました。

 

この作品のクライマックスでは、事故当時の機内の様子を断片的に再現したシーンを、一生さんはじめ出演者の方々が、キャスターつきの椅子と、金属のパイプ数本と、大きめのスーツケースいくつかで、おそらくボイスレコーダーに残っていた音声を完コピしながら創り上げていました。

 

このシーンは本当にインパクトがものすごくて、今までミュージカルを観たときには感じなかった衝撃を全身に食らいました。多分、この先ずっと忘れられない光景です。

 

観劇後にさまざな感想を拾って読んでみましたが、絶賛評が8割で、否定派は2割くらいの印象でした。

 

否定派の人たちは、やはり「なんで日航機墜落事故をネタにしたの?」という部分に引っかかる方が大半のようでした。

 

この題材を扱うことについて、あまりよく思わなかった人たちが、どこに引っかかったのかな〜と考えてみましたが、ボイスレコーダーに記録されていた「生と死のはざまで、神様に向かって戦いを挑み、【本物のことば】を発していた人」の発言が、少なくとも物語の前半では「笑い」に転換されてしまっていたのは、私も少し引っかかりました。

 

「頭下げろ」は、冒頭ではイタコさんに土下座させようとしているような言葉になっていましたし、箱の中から聞こえてくる「がんばれ」に対して「何これ~~」みたいに嘲笑するようなセリフもありました。

 

(もちろん観客に対して、そういう風に茶化しておかないと、最後にカタルシスを与えられないからという狙いもあると思います。でもその言葉は「かつてこの世で生きていた、フィクションの登場人物ではなく、血の通った実在の人物の言葉」と思うと………)

 

一方で、確かにたった36年前の事故を題材にするのは、遺族や関係者のみならず、当時を知る人は客席にもたくさんいたでしょうし、取り上げるには少し早すぎる気もしました。でも調べてみると、他の劇団もこの事故を題材にした作品をもっと前に作っているようで、じゃあ同じくほとんど不慮の事故といってもいい「タイタニック」で、現代に生きる私たちが感動して涙するのと、この作品は何が違うのかと言われたら、私はどうとも答えられないな〜とも思ったり。

 

ただ、「タイタニック」と決定的に違うとすれば、当事者の言葉を前半は笑いの要素として使ったこと、それから「頭上げろ」という言葉が、自殺志願をしていた人に対して「生きろ」と呼びかける、やや飛躍したポジティブな希望の言葉に(勝手に)変換されていたことかもしれません。

 

野田さんはきっと頭のいい人なので、「遺族や関係者が見たらどう思うか」ということを、考えなかったわけではないと思います。少なくとも作品のチラシに書いてある通り「この題材を扱うのは不謹慎である」と自分で分かりきっていて、それでもなおこの内容で1つのお芝居を創り上げたかった。

 

それは劇作家としての意地なのか、傲慢さなのか、どちらともとれると思いますが、5年前でも5年後でもなく、「今」どうしてもやりたかったんだろうなという、その気持ちは作品を通じてひしひしと伝わってきました。

 

(「不謹慎」という言葉自体、最近ではなにかとすぐに使われているので、言葉が軽くなったことに対する野田さんの皮肉、みたいなものもあるのかもしれません)

 

ここまで散々書いてきましたが、扱われている題材について、「それを扱うことの是非」を問うのは、事故当時生まれてもなかった私があれこれ言うことでもないと思うので、とりあえず置いておいて…。

 

劇中で発するセリフのすべてが、他のセリフや、劇中のテーマに蔦のように絡みついている作品でした。言葉のシャワーを存分に浴びたせいで、全身で受け止めたはずが、私のキャパが足りてないがために、7割くらいは劇場内に落としてきた気がします(真顔)

 

散りばめられた「コトノハたち」が、着地点(結末)に向かって全力で走っていくイメージ。何回観ても「あぁ、この言葉はあそこに繋がっているんだな」という発見ができそうでした。

 

あのクライマックスをまた観なくてはいけないのか、と思うと、2回目を観るのはなかなか気持ちが重たかったのですが、全編にわたる「ことばあそび」をまた聞きたい気持ちの方が強かったです。

 

内容については、書いていくと本当にきりがないので、一生さんの素晴らしさについて書いていきたい…!

 

【mono:高橋一生さん】

「声の魔術師」って肩書つけてもいいですか??????

お芝居の質が高いことは重々承知の上でしたが、声の使い方に毎回目を(耳を)見張ってしまいます。ちょっとした声色の変化にドキッとさせられる、本当にすごい役者さんだと思います。

 

・一生さん登場後に真っ先に思ったこと。

「髪の毛どした?????????」

3月まで放送されていたドラマ「天国と地獄」の(ヘアスタイルの)面影が一切なく、もふもふプードルを頭に飼ってるようなヘアスタイル。梅雨の時期だというのに、うっとおしくないんでしょうか…。それとも「天保~」が公演途中で中止になっちゃったから、願掛けで公演期間中は髪切らない!とかなのかなぁ…。

(でも一生さんって願掛けとかしなさそう)

 

・橋爪さん演じる楽(たの)との小芝居シェイクスピア、めちゃくちゃ楽しかったです。あれフル尺で観たいな~~~~。大掛かりなお芝居じゃなくて、橋爪さんと一生さんの二人芝居で観たいです。

 

リア王」「オセロー」「マクベス」「ハムレット」。それぞれちょこっとずつでしたが、すごく贅沢でした。「オセロー」は、実は元のお話をほぼ知らないのでふんわりとしかわからなかったんですが、それ以外はがっつり「天保十二年のシェイクスピア」でもやってたので、「これ知ってる!」ってなりました。

 

それにしても去年からシェイクスピアにゆかりのある一生さん。今回は「ハムレット」以外はすべてヒロイン役でした。ドラマ「天国と地獄」でも、大半は女性として生きていた一生さんの、舞台での女性のお芝居が見られて嬉しかったです。ガワはれっきとした男性なのに、なぜあれほどまでにかわいらしく、時には妖艶にも見えるのだろうか……………。

 

・声が本当にピカイチすぎます。あの中でたった1人、どのシーンでも明瞭にセリフが聞こえてきました。劇団四季みたいに母音法を使ってるわけじゃないのに…。客席に背を向けて声を出しても、なぜかばっちり声が飛んでくる不思議。どんな風に発声してるんでしょうか。

 

・あとこれは「天保~」でも思いましたが、身体能力が異様に高くないですか?????めちゃくちゃ筋肉あるとか、踊りができるとか、バク転バク宙ができるとかではないんですけど、体幹がものすごく強いなという印象があります。スローモーションで動きながらセリフを言ったり、舞台上を縦横無尽に駆け回ったり、突拍子もない姿勢で叫んだり。基礎体力(みたいなもの)がとてつもなく高いんだろうなと思います。

 

・野田さん演じるフェイクスピアが嵐のように去っていった後、白石さんと2人のシーンで何かにツボったらしい一生さんが、着ていた衣装の襟元で口元を隠してにやにやしてて、そのあとの台詞も半笑いで言ってたところ、白石さんがすかさず「台詞忘れちゃうから笑わないで!!!!!」って突っ込んでて笑いました。白石さん、開幕当初に1公演だけ全編にわたってセリフが飛んでた回があったそうですが、それを自虐ネタとして扱えるのすごすぎるな…。ベテランの器ですね。

 

あと口元を襟元で隠してにやにやにやにやしてる一生さん、最っ高にかわいかった…(拝)

 

パイロットとして出てくる時の白シャツーーーーーーーー!!!!!!半袖!!!!!ありがとう!!!!!!!(謎)

 

・事故再現シーンは(一生さんのみならずですが)よくぞこのお芝居を、毎日何度も続けられているなと。ノンフィクションの力を借りたお芝居ってどうなんだろう。それこそ「おんな城主直虎」の小野政次とかは、ノンフィクションの人物ですが何百年も前に亡くなっていて生き証人がいないわけで(それこそ「文字で書かれた記録・ことのは」しかないので)、今回の役とは勝手が違うのだとは思います。

 

一生さんだけでなく、皆さんお芝居するにあたって、ボイスレコーダーに残された壮絶な音声を聞いたのでしょうか。それともあえて聞かずに挑んだのでしょうか。どちらにせよ、本当に覚悟がないとできないお芝居ではないかと思います。

 

・最後に楽が「生きるよ!!」って言った瞬間、にっこり笑った一生さんの表情が脳裏に焼きついて忘れられません…。思い出しただけで泣きそう…。

 

・一生さんのお芝居の素晴らしさを表現する語彙力は、私の中には残念ながらないのですが、無理に言語化するのであれば「隙が無い」と言えばいいのでしょうか。

 

役者の仕事としてセリフを覚え、動きの段取りを覚え、そこに感情を乗せるというのではなく、作品にすっと入り込んで、その世界を生きているという印象を強く受けます。

 

だから一生さんが発するセリフはセリフでなくて、その人物が、その世界にいて、その場で思ったこと感じたことを口から吐き出してるし、感じたままに動いているように見えます。

 

一生さんは「高橋一生」としての人生をきちんと生きられているのか、お芝居を見てると時折不安になります。人生すべてを「誰かを生きるため」に捧げていそうなので。

(なんとなく浮世離れして見えるのもそのせいな気がします)

 

【その他メモ】

・御年80歳の白石さん、橋爪さんはともかく、他の方々のセリフの言い方、発声はもう少しどうにかならんかったのかな、というのが率直な感想です。

 

前田敦子さんはなかなかいい味出てましたし、元アイドルとは思えないくらいの女優っぷりだったんですが、喉つぶしちゃいそうな声の出し方で聞いててひやひやしました。

 

野田さんは……きっとあの感じが好きな人が大多数なんだと思いますが、セリフがめちゃくちゃ聞きづらかったので、笑いどころも何言ってるかいまいちわからず、笑えないということがありました。

 

・場面転換の幕の使い方のあざやかさはすごく好きです(ブレヒト幕というそうですね)白い幕が舞台上手から下手、舞台下手から上手に引かれると、あっという間に場面が変わるんです。いちいち暗転しないのでこちら(客)の気持ちも途切れないですし、明らかに場面が変わることも把握できて、良い方法だなと思いました。

(セットが大転換するミュージカルには全く向いてないと思いますけど)

 

いろいろと考えさせられる、良い観劇体験になりました。