Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2022.7.10 舞台「2020」マチネ公演:沈黙は金 雄弁は銀

なんやかんやでここ3年くらい、毎年舞台に出ていらっしゃる高橋一生さん。そして運良く毎年観劇できている私(本当にラッキーでしかないです)

 

 

今回はひとり芝居ということで、事前にあらすじ(のようなもの)を読んでも「?」だったのと、一生さんご自身も開幕前のインタビュー記事で「お客さんの中には全く理解できない方がいてもおかしくないかも」といったニュアンスの発言をされてたので、私はきっとその中の1人になってしまうかなぁ…と、正直内容を理解できずに楽しめないかもしれない不安はありました。それでも一生さんの一挙手一投足を見てるだけで楽しいマンなので、完全に楽しめなくなることはないとは思いましたが…。

 

初見の感想としては、思ったよりも全然(自分なりに)理解はできたけれど、断片的に「うんうん、なるほど」って思っても、全体を通して考えると謎な部分がたくさん残る作品に感じました。

 

大きなジグソーパズルがあって、部分的にはしっかりピースがハマってるんだけど、ピースが組み合わせられない部分の方が多いから、何の絵ができあがるのかまだわからない、みたいな状態。

 

これまで観劇してきて一番意味不明だったのが「ねじまき鳥クロニクル」だったんですが、あれは本当に物語自体が理解できず、自分でなんとか理解しようという気すら起こらなかったんです。

 

一方今回は、なぞかけみたいな作品ではあるんだけど、1つ1つ提示される「なぞ」に対して、「自分で理解したい」という気持ちがちゃんと起きたので、決して理解不能ではありませんでした。

 

演出の白井さんが、開幕前のインタビュー記事でおっしゃっていた「高橋一生からの挑戦状」という言葉どおり、舞台上で色んな「人物」を生きる一生さんに「君たちはこれからどう生きていくの?」と、問い詰められてるような作品でした。セリフや脚本自体を一生さんが書いてるわけではないですが、彼自身もきっとこう思ってるんだろうなと感じました。

 

あと人類がこのままだとどうなるのか、という人類の行き先の提示は、超SFすぎるのでおそらく実現はしないとは思いつつ(錬金術!?)、Genius-Lu-Luが「最後の1人」になってしまったように、人間の思考がどんどん画一化されていく可能性はあるよなと思って、観劇中ちょこちょこ恐怖を感じておりました…。

 

上演時間は約80分の一幕モノ。ひとり芝居なのでほぼ舞台上からはけることなく、一生さんがずっと喋って、ときどき歌ったり踊ったりして、とにかくずっとパワフルなお芝居でした。セリフは量にすると原稿用紙100枚分らしく、一体どうやったら頭にその量が入るのか不思議でしかないです。

 

個人的に一生さんのお芝居は「誰かのセリフに対する反応の仕方」が特に好きな部分だったりするので、今回はそれが観られないな…と思ってましたが、客席を相手にしてるシーンがほとんどなので、それはそれで楽しかったです。

 

以下、箇条書き感想です。

ちなみに本作の内容を全く知らない人が読んだら「?」ってなると思います…。笑

 

・最初に客席から一生さんが入ってくる演出、初日ですでにSNS上でネタバレしてましたが、一生さん的にはそういうのが嫌なんだろうなと。共有しないで、その人が劇場で観て初めて体感して驚いてほしいって思ってそうです。

 

・客席に向かって「肉の塊」って言うの、めっちゃとんがってるなぁ…w何も考えずに言われたことに従い、自分の頭で答えを出そうとする努力すらやめてしまったただの肉片たち。右向け右と言われれば素直に右を向き、「なぜ左ではなく右なのか」を考えようともしない人たち。

 

・コ〇ナという言葉を出さずにこのときの状況を揶揄するのも、なかなか攻めてるなと思いました。ずっと「件(くだん)のアレ」って。笑

 

・四角くて白いブロックは何を表してるんだろう…。きっと正解は1つではないですし、それこそ観た人それぞれで考えたらいいんだろうと思いましたが。最初は「言葉」かなぁと思ったんですが、「産業革命からこのブロックが一気に増えて…」というようなニュアンスのセリフがあったので、人間が神に近づこうとする傲慢さとか、なんでもかんでも「もっともっと」と求めるきりのない欲望なのかなと。

 

・田山ミシェルが生きる時代、人間は彼を除いて全員が完璧な顔・頭脳・肉体に作り替えてるという設定なのですが、「完璧」って何?(特に顔)「完璧」な人間というのが1つに画一化された時代なんて怖すぎます。人間なんて完璧じゃない方が成長するというのに!?(個人感です)

 

・「他人の許されざる行為を容認する」、この言葉を言うときに一生さん(というかGenius Lu-lu)が「容認」という部分で引っかかったような表情をしていたのが印象的でした。確かに「容認」ってものすごく上から目線なような。

 

・特攻隊という概念を考えた人(?)が、終戦後に「仲間に申し訳ない」と遺書まで書いて、海に飛び込もうとしたけど飛び込めなかったエピソード。結局飛び込めなかったのって、彼自身の意志でそういう行動を起こしたならまだしも、そもそもその行動自体、まわりから後ろ指をさされて思い立ったことだから、なのでしょうか。「特攻隊を考えた当の本人なのに、あいつ生きてるんだ」って、まわりが彼を「容認」しなかったのかな。

 

・「ゴリラ」のエピソード。狭いスペースに閉じ込めたゴリラに、生きていくのに十分な食物を与えていたのに、ゴリラは自らの命を絶った。一方で、底が見えないほどの深い穴が身近にあると、ゴリラは生き続けたっていう話が出てきました。

 

生きていくのに最低限のものが得られたとして、他に何かできる自由がなければ、ゴリラも人も絶望して自ら命を絶つんでしょうか…?「死」が身近にあると、逆に生きようとする力が湧くものなのかな…。

 

・ゴリラと人間とを分かつもの。これも最初は「言葉」かと思ったんですが、どうやら「白いブロック」がそれらしいです。全然わかんないや…。

 

・カーテンコールで、舞台下手側から小首をかしげつつニコニコ笑顔で登場した橋本ロマンスさんがかわいすぎて、ふいにときめきました(唐突)

 

・作品の内容を追うことに一生懸命になったがために、一生さん自身のお芝居を楽しむ余裕は、正直あまりなかったです。でも席が最上手の前方だったので、一生さんが上手側にいるときはほぼ目の前でじっくり観られました。やっぱりセリフ回しや細かな表情に惚れ惚れしちゃいました…。