Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2022.6.8 スペクタクルリーディング「バイオーム」マチネ公演:植物たちが見つめる「けものたち」の愚かさ

朗読劇じゃなくて<スペクタクルリーディング>。なんじゃそりゃ、と思いつつ観た「バイオーム」。


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公式Twitterが事前にいくつか稽古動画をあげていて、それを見た限りではストレートプレイとほぼ変わらないのでは?という印象でした。

 

実際に観たところ、1幕はそれでもまだ朗読劇っぽかったんですが、2幕はほとんどストレートプレイでした。どうやら成河さんが「(稽古期間が)3週間もあるし、どうせならセリフ覚えない?」といった提案をされたようで、それでああいう形になったのかなと。

 

なんだかとにかくエグみのあるストーリーでした。五感で楽しむ地獄。セリフがあまりにも露骨すぎて、2幕の終盤とかかなりドン引きだったんですが…。作品を観てドン引きしたのって「プリシラ」の例のシーン以来では…(真顔)

 

観劇直後は「重たいな……」という印象だったんですが、例えば「ノートルダムの鐘」や「パレード」のような「何かしら考えさせられる」というのとは全く異なっていて、人間の汚い部分をただただ一方的に投げつけられるだけで、そこから何か考えさせられるとか、そういう話ではなかったように思います。

 

役者は精鋭7人!!!という感じで、全員もれなく芸達者な方々。だからこそエグさも際立っていたような…。ひと癖もふた癖もありそうな役者さんばかりなので、調和もしつつ「個」がしっかり出ていました。

 

以下、箇条書きの感想メモです。

 

・花總さんのお芝居があまりにも凄まじすぎて、公演期間が短いとはいえ、彼女のメンタルが心配になりました(真顔)お仕事とはいえ、自分しか読まない観劇記録にすら書きたくないような、聞いてて気が滅入るセリフをマシンガンのごとく連発してましたし…。そして「精神のたがが外れてしまった女性」のお芝居が本当にうまいんですよね…。

 

花總さんって(少なくとも私の中では)「お姫さま」みたいなイメージが強すぎて、あのくらい生々しい役を初めて観たので、そのイメージとのギャップがあまりにもすごかったです。宝塚OGという肩書ではなく、1人の役者であるという気迫を感じられるお芝居でした。脚本家の方が、宝塚を辞められてすぐだった方なので、あえてこういう役を花總さんに充てたのかな…とも思いました。あの一連のセリフ、宝塚じゃ100,000,000%書けないもんな…。

 

勘九郎さんの1人2役、それも8歳の男の子と女の子。大人が子供のキャラクター2役を演じるってどうなるんだろうと不思議に思ってましたが、全く違和感なく観られました。瞬時に声色と表情、仕草を切り変えるので、1人しかいないのにちゃんと2人『見えた』のがすごかった…。ほぼ「自分相手に話す」というお芝居だったので、かなり大変そうでした。

 

・成河さん、まじで芝居うますぎん??????ルイ(勘九郎さん)のパパであり、怜子(花總さん)の夫なのですが、パパのときのお芝居にめちゃくちゃほっこりさせられたかと思ったら、その5分後に不倫相手とビデオ通話しながら、相手の服を脱がせて楽しむというド変態ぶりを見せつけてくれました(真顔)

 

・どう考えても笑いどころじゃないだろうなってシーンで客席がちょいちょい沸いてたのはなんでだろう…?

 

例えば玲子の精神が完全に崩壊してしまうシーン、あれは作品として笑わせようとしてるのか、それともいたってシリアスなシーンのはずなのに、観客にはウケてしまっているのか、どちらなのかよくわからなかったです。少なくとも個人的には全然笑えないシーンで笑いが起きてたので、私と他のお客さんの笑いのツボがずれてたのか、それともただ浅かったのか…。

 

・植物は基本的に人間のことを「けもの」と呼んでいて、ルイのことは「小さいけもの」、怜子のことは「母けもの」と呼んでるんですが、クロマツの盆栽だけはずっと家の中で育てられてたからなのか、すっかり人間世界に染まってるのが面白かったです。人間はちゃんと固有名詞で呼んでるし、人間世界のドロドロも理解しているキャラクターになっていました。

 

・古川さんはイングリッシュローズと、ルイや怜子が住む屋敷の庭師・野口の二役でした。なぜか1人だけ頑なにノースリーブ衣装だったのが最後まで気になってしまったんですが(笑)どちらの役もなかなか良かったです。

 

ローズは、端的に言うと某朝ドラに出てきたティーチャーのようなお芝居で、ピシッとなでつけた髪型にあの体格と顔面の強さだけど、仕草や口調は女性的でした。それでも全く違和感がないのは彼の強みじゃないかなと思います。セリフがないところでも風に吹かれてるような動きをしていたり、植物としての挙動(?)が細かくて素敵!

 

野口は、2幕中盤までは正直あんまり面白みのない役だな…と思ってたんですが、彼は本当は全ての真実を知っていて、それでもあの家から自分が抜け出すためには、怜子と関係を持つことで家ごとを壊すしかないと思って行動してたのでは…?と思わせるようなお芝居をされていたので、実は一番怖い人なのかもしれない…と思いました。

 

・4月の古川さんのミュージカルコンサートで、のほほんとした花總さんと古川さんを見た後だったので、今作での二人の役柄の関係性がドロドロしていて、観ていてちょっとしんどかったです。古川さん、まさかビンタまでされるとは…(後々思い出してなぜかじわじわ来ました…w)

 

麻実れいさん、「アナスタシア」では気品ある皇后さま、今回は代々ひとつの家に仕える召使と、役柄上の身分の差が激しかったですが、どちらもその役にあったオーラを纏っていらっしゃいました。

 

・カーテンコールでは、全員まずは人間役で挨拶して、そのあと植物役としてのカーテンコールもやるの流れが好きでした。衣装はみなさん植物役のときの方がおしゃれだったな…。

 

…と、こうやって書き出してみると、私、案外この作品楽しんでたみたいです。笑