Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2022.4.15 ミュージカル「next to normal」マチネ公演:コンタクトが落ちるほどの熱演

3回目&ラストの「next to normal」、再びA チームを観ました。

※ネタバレありの感想です!


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私が最初にこの作品をAチームで観た印象は、とにかく(ほぼ)全員の歌の迫力がすごいこと。でも全体として家族らしいまとまりをあまり感じられず、個々のキャラクターが際立ちすぎてて、歌もお芝居もけんかしているような雰囲気を感じたのが正直な感想でした。まぁ仲良しこよしな家族の話ではないのでそれでいいんだと思うんですが…。

 

そしてもう1つ。ものすごく「感情移入させない」雰囲気も感じました。もしかしたら私の座席位置がほぼ最後列だったからということもあるかもしれないんですが、あくまでも「グッドマン家がいかに崩壊から立ち直ろうとするか」を描いたドキュメンタリーとか、もっと冷たく言ってしまうと「患者の一例」みたいな印象を受けました。

 

テーマがテーマなだけに「簡単に感情移入させないし、簡単に『気持ちがわかる』とも思ってほしくない」というような、ある意味突き放したような、舞台と客席に薄い壁があるような感じ。だからなのか、私にはどうしても最後が「光が見える」みたいな歌で終わるのが解せなかったですし、あまり明るい終わり方じゃないんだなとすら思いました。

 

(主に岡田ダンのお芝居を見てそう思いました。ゲイブが『見える』ことは、彼にとって決してプラスにならないんじゃないかと思ったので)

 

ということで、Aチームを一言でまとめると「非常にドライ」というのが初見の印象でした。

 

ただし今回、Nチームを1回挟んだからなのか、それとも10日経ってAチーム全体のお芝居が変化したのか、変な表現ですが「向こうから歩み寄ってきてくれた」印象を受けました。

 

終盤のシーン、前回は全然泣けなかったけど、今回は何度か泣きそうになりました…。確実に前回とは違うと感じたのは、ゲイブが『見えた』後の岡田ダンの芝居。前回はなんとなく彼だけ取り残されてしまった感じでしたが、今回はゲイブが『見えて』、ナタリーと向き合うことで、この先ダイアナのように病んでしまうかもしれないけれど、それでもきちんと「悲しめた」ことで、ダンも前に踏み出せたんだなと、ハッピーエンドのように思えました

 

このラストは、前回のAチームとは正反対の印象だったので、本当に同じチームなんだよね?と思ったくらい。

 

以下、キャスト別感想です。

 

【ダイアナ:安蘭けいさん】

・前回よりもドクターとのシーンでのコミカルさが増した分、負の感情を発露する場面との落差みたいなものが見えて、苦悩するお芝居がさらに浮彫りになってるように見えました。前回は自分が患っている病気に対して、もっとさらりと付き合っている印象だったので。

 

・安蘭ダイアナのすごいところは、どれだけ感情的な芝居をしても、歌声がほとんどブレないこと。感情が勝って歌声が少し不安定になる瞬間って、個人的には嫌いじゃない(むしろ結構好き)ですが、感情と歌のバランスがしっかり取れる人って意外と少ないんじゃないかなぁと思ってます。

 

【ダン:岡田浩暉さん】

・前回は「修行僧みたいな人だな…」と思ってたんですが、今回はもう冒頭からずっと疲れた様子に見えました。ダイアナを支えることが、最初は文字通り彼女をサポートすることだったのに、おそらくどこかの時点で「ダイアナを支えること」が彼の精神的な支柱になってるのがよく伝わってきて辛かったです。

 

自分だって壊れかけている、というかとっくに壊れているのに、ダイアナをひたすらに見つめて続けることで、その事実から目を背けているんだな、というのが1幕の芝居だけで伝わってきました。悲しみに溺れてしまった人を支え続けることで、なんとか正気を保っているなんて悲しすぎる…。「狂っているのは妻なのか、それとも車で待つ俺か」と歌うシーンが一番印象的でした。

 

・終盤、海宝ゲイブが岡田ダンを後ろから強く抱きしめて歌うシーン。それまで2人を「似ている」なんて思ったことがなかったのに、この瞬間は「父と息子」にしか見えないレベルで血のつながりを感じて、鳥肌が立ちました。役者さんってすごいなぁ…(小並感)

 

【ゲイブ:海宝直人さん】

・前回は本当に「得体の知れない何か」にしか見えず、少なくとも私には恐怖の的でしかなかったんですが、今回は不気味な表情や攻撃的な雰囲気はやや影を潜め、「家族に忘れられたくない」一心で動いているんだなと、自分だけが先に逝ってしまった寂しさや哀しみを感じました。

 

とはいえ、♪I‘m Alive♪の絶唱っぷりはあいかわらずものすごくて、あのシーンで誰よりも生き生きと輝いてる海宝ゲイブ、恐ろしくて素晴らしかったです。

 

【ナタリー:昆夏美

・今回、昆ナタリーが終盤めちゃくちゃ泣いてたので、思わずもらい泣きしかけました。

 

ヘンリーに対して「自分も狂うかもしれない」と吐露するところ、橋本ヘンリーが前回よりもかなり頼もしくなってたので、あれだけの強い勢いで不安をぶちまけられるようになったんだろうなと。優等生なんですが、強がっているというよりいつも不機嫌そうなオーラを放ってるのが、屋比久ナタリーと違う点に思えました。

 

【ヘンリー:橋本良亮さん】

・歌はともかく…ですが、お芝居はかなり良くなってました。前回はナタリーを受け止めきれなさそうでしたが、今回はナタリーをしっかり支えて全力で愛してあげられそうなヘンリーでした。

 

ラストがハッピーエンドに思えたのも、もしかしたら橋本ヘンリーの変化が大きかったのかもしれません。

 

【ドクター・マッデン:新納慎也さん】

・唯一それほど(いい意味で)変わらず、実はこのチームの軸になっているのは彼なのかなと思いました。

 

初演から出演していて、この作品に心底惚れ込んでいらっしゃるようなので、どんなお芝居をぶつけられても柔軟に返せる余裕がありそうでした。

 

ダイアナの妄想の中で、ドクターがロックスターに見えるシーン。安蘭ダイアナの耳元でシャウトする声をオクターブ上げててめちゃくちゃ笑いましたw

 

さて、ゆるふわカテコが売り(?)のNチームとは違い、カテコまでストイックにやりきるAチーム。………のはずだったんですが、カテコ中に岡田さんが突然、

 

\今日もコンタクトを落としました!!!!!!!!!!ありがとうございました!!!!!!!!!!!/

 

と叫び始めて場内大爆笑。それを受けて床を見下ろしながらコンタクトを探し始める橋本さん&新納さん。

 

そしてまさかの「あった!!!!!!」と、コンタクトを拾い上げる新納さん。

 

2回目のカテコで、ティッシュにくるんだらしいコンタクトを高々と掲げ、

 

\あったぞーー!!!!!!/

 

と叫ぶ岡田さん。拍手喝采の客席。去り際に「まぁ使い捨てなんですけどねw」と言い残していく新納さん。

 

ということで、なぜかめちゃくちゃ面白いカテコが観られました。笑

 

ものすごく好きな作品か…と言われるとそうでもないんですが、不思議な魅力に溢れた作品でした。

 

次回再演時もぜひチーム制で、シアタークリエでの上演希望です!