Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2021.01.29 ミュージカル「イリュージョニスト」コンサート版:上げろ、幕を。


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*物語に関するネタバレを含みます。いつか上演されるであろう「本当の初演」まで、何も知りたくない方はUターン推奨です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだかんだありすぎたけど結局観られました。

(色んな意味で疲労困憊)

(一時期本当に絶望してたので)

 

上演までにこれほど荒波に揉まれる作品、過去に前例がないのでは…?

 

コロナ禍まっただ中での上演発表だったため、上演できるかどうかは時期が来ないとわからないよな…感染者が増えたら、最悪中止でもおかしくはないよな…と思ってはいましたが、まさか主演の役者さんが突然この世を去るなんていう全く別方面からの悲劇は、誰も予期してなかったと思うので…。

 

私はその時点で「上演中止か、延期になるんだろうな」と思ってたんですが、海宝さんがアイゼンハイム役に、成河さんが参入して皇太子役になり、「本当にやるの…!?」と思っていたら、今度は出演者にコロナ罹患者が出てしまったとのこと。稽古が追いつかない、ということでコンサート版での上演が決定しました。

 

そして「コンサート版を上演するにも、このままでは稽古日が足りないので、1月27日~29日のみの上演、それ以前の回はすべて中止」という最後のダメ押し。

 

3日間限定上演が決まった当初は「チケットの追加販売は一切ありません」と告知され、手持ちのチケットがすべて払い戻し対象になった私は茫然自失。それが一転して「払い戻しが多かった回で客席50%未満の場合は、少数ですがチケットの追加販売実施します!」となり、本当に運良く確保できました。

 

上演にいたるまで、傍から見ていると、もはや「降りかかる災難 VS やり遂げようとするカンパニーの熱意」みたいになっていて、正直「どうしてそこまでして上演しようとするんだろう」と、ちょっと不思議でした。引くに引けない事情があるんだと思いますが、「世界初演」と銘打つのであれば、なおさら完璧な状態で上演したほうが良いのでは…?と思っていました。

 

でも実際に作品を観て、なぜ今、この状況で、たとえ5公演であっても上演すべきなのか、(諸々の事情を差し引いても)なんとなく理由がわかった気がしました。まさか「パレード」に通じるテーマがあるとは…(紙吹雪含め)

 

「人は、信じたいものを【真実】とし、そうでないものを【嘘】とする」

 

「パレード」では、これでレオ・フランクが犠牲となり、なおかつレオ側の視点から描かれた話だったため悲劇として終わりましたが、「イリュージョニスト」では、同じ流れをアイゼンハイムとソフィが【利用】して、皇太子を追い落とすという結末になっていました。

 

もし観劇した順番が逆だったら、私は一体どう感じていたんだろうか…。アイゼンハイムとソフィがくっついたしハッピーエンドだな~!って思ってたのかな…と考えると、ちょっと複雑な気持ちになりました。

 

イリュージョニスト」は、「その場面」だけを観たら、最後は晴れやかな雰囲気で終わっていますが、そこに隠れている背景を考えると、薄気味悪い後味が残りました。

 

さらに「イリュージョニスト」の方がモヤッとするなぁと思ったのは、悲劇のヒーロー・ヒロインかと思われた2人が、実はとんでもなくあくどいカップルで(この解釈も見方によっては、ですけど)、人の気持ちを理解しない悪人が、その事件についてはどうやらずっと正しいことを言っていたらしい、ということ。

 

嘘が真実として塗り替えられてしまう恐ろしさを「パレード」で見てしまったので、私は正直、アイゼンハイムが心底恐ろしい人間だと思いました。そこまでしてその愛を貫くのが美しいとみるか、それともドン引きするかって感じでしょうか(暴力を振るう男から愛する人を救ったと考えるのであれば、まぁそれはそれで…)ちなみに私は引きました(ド直球)

 

物語自体が面白いというよりかは、物語が持つテーマが面白かったのと、「パレード」と同時期に上演するのはなかなか興味深いなと思いました。

 

物語は一旦置いておいて、全体的な雰囲気はものすごく好み。観劇前はいろいろあったけれど、観劇中は余計な事を一切考えずに集中して観られました。あれだけ集中して作品を観たの、久々だったな…。

 

演出という意味では、「完全版を絶対に観てみたい!」と思いました。コンサート版とはいえ、出演者がただ立って歌うだけでなく、セリフもあって動きもそれなりにあり、アンサンブルさんたちは部分的にダンスまであって、コンサートとミュージカルの間、かつストレートプレイの要素も多分に含まれるような、独特な上演形式でした。

 

舞台機構がないため、イリュージョンを行う場面はほとんどカットされていて、若干「何が何やら??」という場面もありましたが、話が追えなくなるということはなかったので、かなり試行錯誤したんだろうなと思いました。だからこそイリュージョンの場面があれば、なおのこと華やかになるでしょうし、物語+歌+イリュージョンを楽しめるので、かなり豪華なミュージカルになりそうでした。

 

楽曲もかなり好きです!最初と最後に歌われる、この作品のメインテーマみたいな楽曲が、しばらく頭から離れなくて困ったくらい…。笑

 

複雑怪奇なメロディーの曲が多い中、ソフィのソロナンバーである♪サヨナラはもう♪と、アイゼンハイム&ソフィのデュエットナンバー♪その腕の中へ♪は、切ないメロディーラインがとても印象的でした。海宝さんとちゃぴさんのハーモニー、2人のファンである私にとっては耳が幸せな時間でした。

 

以下、キャスト別感想です。

 

【アイゼンハイム:海宝直人さん】

・まずは、本当に本当に本当にお疲れ様でした。今回の試練を乗り越えた海宝さん、おそらく色んな意味で心身ともに鍛えられたと思います。

 

・初日初回公演の挨拶で、言葉に詰まるくらい涙されたと聞いて、いつも比較的涼しい顔でなんでも飄々とこなすイメージがありましたが、さすがに今回は相当堪えたんだろうなと。珍しいなと思う反面、海宝さんも人間なんだな~と思ったり(当たり前)あまりそういう苦労を表に出すような方ではなさそうなので、なんでもできちゃう人間離れした印象が強くて…。

 

・思いがけずではあったかと思いますが、記念すべき日生劇場での初主演作品となりました。カーテンコールで最後に1人、舞台袖に残って客席に手を振る姿を見て、「主演だ~!」と実感しました(遅)

 

・アイゼンハイムは、海宝さんが今までに演じたことのなさそうな役柄でした。10年ぶりに再会したソフィにガンガン迫っていく姿は、一途さを感じつつ若干怖かったです…(最後まで観ると恐ろしいキャラクターではあるんですけど)

 

ジーガと喧嘩して「行けよ!!!!!!!!!!!!!!」って怒鳴る場面を見て、「激おこ海宝さん珍しいな…そして上手いな…」と思ってました(小並感)

 

白シャツ腕まくりさせようって提案した人誰ですか!?!?!?!?!偉い!!!!!!わかってる!!!!!(うるさい)

 

・海宝さん(と濱めぐさん)の歌は、客席に直球で届くのですごく聴きやすくて心地よかったですし、言葉がはっきり聞き取れるので何を歌ってるかわからんみたいなストレスもなく、いつ聴いても本当に最高だなと、改めて感動いたしました。ハイトーン出すにしても、苦しそうな表情で歌う役者さんもいる中、まったく顔色も表情も変えずに歌いあげるのが本当にすごいです。

 

・ところで皇太子としてなのか、アイゼンハイムとしてなのかはいまいち分からないんですが、海宝さんの歌声を聴いたイギリスの制作陣が、そのあまりの素晴らしさに「彼のためにもう1曲書いた」とおっしゃっていました。どの楽曲のことだったんだろうか…。

 

・アイゼンハイム役もめちゃくちゃ良かったですが、皇太子を演じる海宝さんもめちゃくちゃ見てみたいです。当初はあの役にキャスティングされてたって、結構意外かもしれない…。

この作品は、皇太子の演じ方でこちら側の受け取り方が変わりそうなので、海宝皇太子だったらもっと皇太子寄りで観ていたかもしれないですし、逆にアイゼンハイム&ソフィをもっと祝福できてたかもしれません。

 

・ていうかシンプルに、あの軍服を着た海宝さんを見てみたい。なので再演時はアイゼンハイムと皇太子を兼任してほしいです(無茶ぶり)

 

 

【皇太子(レオポルド):成河さん】

・成河さんが皇太子役にキャスティングされたって聞いたとき、成河さんがもう「エ〇ザベート」には出ない(出たくない?)みたいなニュアンスのことを、どこかで言ってたか書いてたかしてたのを思い出し、そんな彼が、よりによって皇太子ルドルフをモデルにしたであろう役を演じることになるとは、なんとも奇妙なめぐりあわせだなと思いました。結局「エ〇ザベート」の呪縛から逃れられてないという…。濃い目の青い軍服、似合ってましたよ成河さん!(とはあまり言われたくないでしょうけど…)

 

・唯一後からカンパニーに参入したはずなのに、1番役を自分のものにしてたように見えたのはなぜ!?しかも何がすごいって、2月に別の作品が入っていたため、そちらのお稽古をやりつつ、こちらのお稽古もこなしていたという…強すぎんか…。

 

・個人的には、皇太子のバックグラウンド(この年齢になっても皇位を継がせてもらえないもどかしさとか、子供時代にすごい厳しい教育を受けて性格がゆがんだこととか)をもっと入れても良かったんじゃないかなと思ったんですが、そうすると皇太子に肩入れして見ちゃいそうなので、これで良かったのかもしれない…。

 

・とはいえ、そこは成河さんが演じていらっしゃるので、基本的には傍若無人で暴力的で自己中心的なキャラクターではありましたが、彼にしかわからない悲しみや憤りもしっかり感じさせてくれるお芝居でした。ソフィ殺害の罪でウールに追い詰められたとき、怒鳴りながら涙が飛び散ったのを見て、そう思いました。きっと彼はソフィを心底愛していたけれど、その愛情表現の仕方を間違っただけなんだと思います。

 

(「俺は理性的な男だ!」って歌いながら、理性のたがが外れたみたいに人をぼこぼこに殴るっていうはちゃめちゃすぎるシーンもありましたけどね…)

 

・おそらく元は海宝さんが演じることを想定して楽曲も書かれたんだと思いますが、歌のキーの幅が結構広くて、でもなんでもないような顔して歌ってたので、さすがだなぁと。成河さんは特にミュージカルを専門にやってきた方ではないはずなんですが、遜色ないくらい歌がうまいんですよね。今回はときどき海宝さんの歌声にそっくりになっていて、どちらが歌ってるのかわからない瞬間もあって驚きました。

 

・名前は違っていたものの、モデルにした人物がルドルフなのはセリフからも明白だったので、人物像を「エリザベート」のルドルフと見比べると面白かったです。

ルドルフは、一方から見たら「終わりに向かっていくハプスブルク家を、何とか建て直そうとする熱い志を持った青年」で、もう一方から見たら「家を存続させて自分がトップに立つために危険な思想に走る青年」だったんだろう…と思うと、人物を多面的に見るという意味では「イリュージョニスト」のテーマにもつながってくるなと。

 

 

【ソフィ:愛希れいかさん】

・ちゃぴさんがただ儚いだけのヒロインに収まるわけないよな…と思っていたので、結末で「やっぱりそうだよな~~~」と、彼女がこの役にキャスティングされたことに十分納得がいきました。劇中、一番したたかで強いキャラクターでした。

 

・ソフィのドレスは、きっと完全上演版であればもう何着かあったんだと思いますが、メインのパステルブルーのドレスは美しいけれどちょっと弱い気がして、もっとパキッとした色でもいいんじゃないかなと思いました(完全に私の好みの問題)結末でちょっとだけ着てた、町娘っぽい衣装の方がかわいかったなぁ。

 

・歌は、今回は正直あまり良さが出ていない気がして…。高音部分がいまいち弱かったのと、♪サヨナラはもう♪は泣きながら歌ってたので、微妙な感じでした(楽曲自体は好きでしたが)

 

・ソフィは途中で殺される設定なので、あまり見せ場もなかったような?アイゼンハイムとの掛け合いも良かったですが、皇太子と対峙するシーンが好きでした(舞台前方で賭け事する人たちが並んでて、その後ろで皇太子とソフィが言い合いしてるシーン)

 

 

ジーガ:濱田めぐみさん】

私の好みド真ん中なキャラクターでした。終始かっこよすぎた…!

 

・当時の女性はソフィのように、地位とお金と権力がある人に嫁いでおとなしくしてるのが通例だったと思いますが、ジーガは一団を引っ張る興行師で、アイゼンハイムを一人前の奇術師に育て上げた、いわばオカン的存在。濱めぐさんと海宝さんは旧知の仲なので、とても信頼し合ってお芝居されていることが伝わってきました。

 

・登場時のシックな色味のゴージャスな衣装も良かったですが、白と黒の細いストライプ柄のスーツもめちゃくちゃ素敵で、何より劇中ずっとパンツルック&ハイヒールブーツだったのがツボすぎて、ジーガの衣装どこかに展示してください…と願ってました。間近で見たい…。

 

・濱めぐさん、「レ・ミゼラブル」のファンテーヌより、こういう強気な役のほうがずっと素敵に見えます。「サンセット大通り」のノーマも見てみたかったな~!

 

 

【ウール:栗原英雄さん】

・初日の夜公演、終盤の大事なシーンでなんと失神していたそうで(震)検査をして身体に異常はなかったそうですが、客席から見てても明らかに様子がおかしかったらしく、本人もその時の記憶がないそうなので恐ろしすぎます。大事に至らず、本当に良かった…。

 

・私が観た回は全く問題なく、劇中唯一観客と同じように、第3者目線で事件を追う刑事を熱演されてました。

 

・さすがベテラン!といった風情で、特にお芝居は、アイゼンハイムと対峙する場面、皇太子と対峙する場面で、それぞれすごく見応えがあって素晴らしかったです。

 

3日間5公演だけでしたが、その中の1公演だけでも観られて良かったですし、無事に最後まで完走できて私も(勝手に)ホッとしました。このことは多分一生忘れないだろうな…。

 

完全版の上演はまだ先になりそうですが、少なくともプリンシパルキャストは全員続投で「本当の初演」を上演してほしいものです!