Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2020.09.04 ミュージカル「VIOLET」初日公演:旅の始まりは、1964年9月4日、金曜日

2020年4月に上演予定だった「VIOLET」。

 

もちろんご多分に漏れず、コロナの影響で全公演中止になりました。が、数か月後、3日間5公演のみの上演決定が発表されました。本当にびっくりな発表でした。

 

正直「そんなにあわててやる必要があるんかな…」と思いましたが、カンパニーの皆さんが中止が決まった後も、本読みやブレストを定期的にリモートでやってたようで、そんなこともあっての上演だったのかもしれません。

 

キャスト先行抽選では全落ちしたため、こりゃ難しいかな~と思ってたんですが、その後の抽選で何とか当選。初日初回を無事に見届けることが出来ました。


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初日の上演数時間前に、作品の公式Twitterアカウントがつぶやいてたんですが、劇中で主人公・ヴァイオレットがノースカロライナからの旅を始めるのが、【1964年9月4日、金曜日】、彼女の旅が終わるのが【1964年9月6日、日曜日】。なんと日にちのみならず、曜日までもが、今回の公演期間と全く同じだったそうです。

 

特に狙ったわけではないらしいですが、なんという偶然。劇中でヴァイオレットの旅がスタートする時、彼女が「9月4日」と日付を口にしていたのですが、その瞬間、この奇跡を想って涙が出そうになりました。

 

全体的な感想。

正直個人的にはそこまでピンとくる作品ではありませんでした。ロードムービーっぽいんですが、ヴァイオレットと兵士のフリック&モンティの三角関係が結構多くて、思ってたのとちょっと違うような…と。

 

終盤の展開が怒涛で、そのままささーっと終わった印象もありました。苦手ではないけど、私はそこまで好きになれない演目でした。ただ役者さんは総じてクオリティが高く、再演も全く同じメンバーで観られるのであればもう1度観てみようかなと思ってます。

 

1度だけだと理解が追いつかない部分もあったかな…(これは私の理解力の問題ですね)幕間なしで一気に集中して観たのと、初日初回でとにかく舞台からの熱気が凄まじかったので、観劇後は頭がオーバーヒート気味でした。

 

あとメッセージ性が高いのかそうでもないのか、私にはちょっと判断がつかなかったです…。「人を見た目で判断するな」みたいな話かと思いきや、中盤の展開とかそうでもなかった気がするし…。あと伝道師コンサートのシーンで個人的にはちょっとダレちゃいました。

ヴァイオレットは不慮の事故によって顔に深い傷を負い、(おそらく貧困のせいで)満足な治療も受けられず、12年間ずっとからかいや同情の目を向けられている女の子。「だから私は差別されてる人の気持ちが分かるの」と彼女は堂々と言い放つけれど、バスの旅で出会った黒人兵士のフリックに対して、悪意は全くないものの、肌の色に関するからかいの言葉を投げるシーンがあり、個人的にあのシーンはすごくグサッときました。

 

後天的な傷を持ったヴァイオレットが受けた差別と、生まれつき肌の色が異なるフリックが受けた差別は、きっと別のものなのに、簡単に「気持ちが分かる」なんて言えないよなぁ。あとこの場面で、ヴァイオレットがフリックへの弁明として「肌の色のこと言ったわけじゃなくて、あんたみたいな顔だったら嫌だなってこと!」ってさらに墓穴を掘るようなこと言ってて、「うわぁ…」ってなりました(なぜか客席からは笑いが起きてて「??」状態でしたけど)

 

どう見ても胡散臭い伝道師なる人を、もはや盲目的と言えるほどに信じて、故郷を飛び出したヴァイオレット。フリックやモンティみたいに、完全に第三者の目線で見ると、どう考えてもそんなものを信じるのはおかしな話なんですが、12年間もの長い時間、誰からも救いの手を差し伸べてもらえなかった彼女にとって、伝道師は最後にして最大の望みだったんだろうな…。と思うと、はじめから分かり切ってる結果を思ってしんどくなりました。

 

でもヴァイオレット自身、故郷を出なければ分からなかったことがたくさんあっただろうと思うと、彼女の旅は顔の傷を癒やすこと以上に意味があったと思うし、そう思いたいです。

 

【ヴァイオレット:唯月ふうかさん】

・顔の傷以上に心に深い傷を負った繊細なヴァイオレットを、丁寧に、でもすごい熱量で演じていらっしゃいました。実は最初にふうかちゃんを知った時は、あの独特な声質があんまり好みではありませんでした。でも「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役で良いな!と思うようになり、「天保十二年のシェイクスピア」のおさち/お光の1人2役も本当に素晴らしかったですし、今回のヴァイオレットも、エポニーヌとはまたちょっと違った暗さを抱えた役で、新たなお芝居の引き出しが増えたんじゃないかなと思います。

 

・モンティ役が成河さん、フリック役が吉原さんだったため、ふうかちゃんヴァイオレットだとややバランスが悪いかな…?というのが率直な感想です。かわいい女の子に、年上の男性2人がちょっかい出してる風にしか見えず…(失礼な感想ですみません…)

 

・今回は観られませんでしたが、モンティとフリックとのバランスを考えると、おそらくヴァイオレットのキャラクターとしては、Wキャストの優河さんの方がしっくり来るのでは、と思いました。

 

【モンティ:成河さん】

・私が成河さんの曲者キャラばかり見てるからかもですが、どーーーーーーーしても胡散臭いイメージがぬぐえず(ひどい)、ふうかちゃんとのアンバランスさを感じてしまいました。本来であれば、もう少し若い俳優さんが演じる役なんだろうな…。成河さんの演技力をもってしても、その辺はあんまりカバーできていなかった気がします。

 

・一番印象的だったモンティのシーンは、ヴァイオレットをバイクの後ろに乗せるよ!と言って、振り返ってヴァイオレットの顔を間近で見た時の、あの我に返ったような冷めた表情でした。めちゃくちゃ人間臭すぎて、ちょっと嫌な気持ちになりました…。

 

【フリック:吉原光夫さん】

・吉原さんとふうかちゃん、「レ・ミゼラブル」ではジャン・バルジャンとエポニーヌなわけで、どうしてもそのことが頭をよぎってしまいました…。年の差はどうしようもないのですが、やっぱり若干違和感があったかな…。でも吉原さんはさすが元劇団四季なだけあって(なのか?)、唯一歌詞が一字一句きちんと聞き取れた役者さんでした。歌が相変わらず尋常じゃなく上手いし、声量もすごいし、次回のレミゼも絶対に吉原バルジャンで見なくては…と思わせてくれる歌声でした。

 

 

そういえば演出はまたもや藤田さんでしたが、「ジャージー・ボーイズ」のようにカメラを使った演出があり、なんとなくパターン化してる…?と思いました。

 

1度は中止になってしまった作品が、2020年のうちに観られることになるなんて、本当にラッキーでした。あとコロナになんて負けないぜ!っていう気概をカンパニー全体から感じて、観劇ファンとしてはどこか心強く感じたところもありました。

 

きっと近いうちに再演があると思うので、その時は当初想定されていた「舞台を客席が囲む」仕様でぜひ観てみたいです!