Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2020.02.14 絢爛豪華 祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」:歌えや踊れ カオスな任侠音楽劇

2020年の観劇作品の中で、トップ3に入るくらい楽しみにしていた「天保十二年のシェイクスピア」観劇。


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思えばこの演目、発表されたのが開幕のまるっと1年前の時期で

 

高橋一生が!!!!!

舞台!!!!!!!!!

しかも歌う!!!!!!

このチャンスを逃すわけにはいかん!!!!!!」

 

と、そのころからチケット確保に向けて闘争心を燃やしておりました(早)

結果2公演確保することができ、観劇日を心待ちにしていました。

 

この作品は、シェイクスピアの戯曲全37作品と、「天保水滸伝」という任侠の世界の物語を組み合わせた、摩訶不思議な音楽劇。

(楽曲が思ったより多かったので、ミュージカル寄りの音楽劇という印象です)

 

上演時間はなんと3時間35分

(あ、休憩含めだったかな…?)

ただし過去に上演された蜷川幸雄さん版はさらに長かったようで、ソワレだと終電に間に合わなくなるからと、途中で帰ってしまうお客さんもいたとか、いなかったとか。

 

というわけで、「キレイ〜神様と待ち合わせた女〜」と同じくらい長丁場でしたが、あまり冗長さは感じませんでした。そのくらいお話にのめり込めたのかな…?と思いましたが、あまりの登場人物の多さに、のめり込むというよりも、人物関係を整理するのに必死で時間が過ぎていった…と言った方が正しいかもしれません。笑

 

でもすっっっっっごく面白かった…!!

冒頭の木場さんの口上から、♪もしもシェイクスピアがいなかったら♪あたりまでは、「和風なのにめっちゃミュージカルじゃん!?」と、やや呆気にとられたのですが、最後まで見たらめちゃくちゃ面白かったです。

とんでもないカオス状態ではありましたが、不思議ときっちりまとまりのある作品でした。よくぞシェイクスピアの全作品を詰め込んで整合性の取れた物語にしたなぁと、脚本のすごさをひしひしと感じました。

 

あちらで「ハムレット」、こちらで「ロミジュリ」、「リア王」だ〜!と思ってたら「リチャード三世」っぽいキャラが出てきたりと、シェイクスピア作品に少しでも馴染みがあると、物語以外の点からも楽しめる作品でした。シェイクスピアで「アベンジャーズ」を結成したらこんな感じかしら、と思ったり(ちょっと違うかw)

 

逆にシェイクスピアに全く馴染みのない人(ハムレットですらよく知らない人とか…?)は、この作品を観てどう感じたのか気になります。純粋にお話だけ追いかけて楽しめるのだろうか…。

 

1つ難点…というか、他人におすすめしづらい点があるとすると、下ネタ満載なところ。

今回は1人観劇だったので特に気になりませんでしたが、これは「親子観劇が気まずくなる作品第1位」に挙げられそうな気がします。

(過去公演はもっと過激だったようなので、これでもマイルドになったみたいですけど)

 

ちなみに年齢制限とか設けてたんですかね…?少なくとも小学生には全くおすすめできません。隙さえあれば、あれやこれやいたしてしまう感じだったので(婉曲表現)

服を脱いだり…はありませんでしたが、セリフとお芝居でこれでもかというくらい表現されておりました。

 

しかしこんなにも、大学の授業で英文学の授業を取っておいて良かったと思う日が来るとは…。「イギリス」で生まれるエンターテインメントが好きという理由で、英文学の授業も取っていたのですが、まさか数年後、舞台観劇で役立つ日がくるとは。

(でもシェイクスピアはきっと、観劇するなら知識として入れておいて損はないんだろうなと今回感じました)

 

劇中で「ハムレット」役を担っているきじるしの王次が、自分の父親の亡霊と話すシーンなんかは、割とそのまんま「ハムレット」で、「よく聞け息子よ!」「全身を耳にして聞いてるぞ!!」みたいなハムレットと父親のやり取りは、授業で習ったなぁと懐かしさに浸りつつ見てました。

(ただしこのやり取りは、この作品の中では佐渡の三世次が王次の父親の亡霊役(百姓)を雇って演じさせているんですけどね。笑)

 

あとは「ロミオ&ジュリエット」のDVDを狂ったように繰り返し見ておいて良かったです。「あぁ!!このシーンはミュージカルのあの場面…!!」みたいな瞬間がたくさんありました。

ジュリエット役を担っているお光の「王次王次王次ぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!どうしてあんたは王次なぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」とか、ロミオ役を担っている王次の「恋の翼に乗ってやってきたぞ!って言っても六尺くらいだから大した高さじゃねぇがな!!!!!!!!!!」で思わず噴き出しました。笑

 

ちなみに王次は、場面によってはハムレットになったり、ロミオになったりと、1つのキャラクターが複数のシェイクスピアキャラを担当しているのも、非常に面白かったです。

 

劇中混ざっていたシェイクスピア作品で分かったのは、「ハムレット」「ロミオとジュリエット」「リア王」「マクベス」「真夏の夜の夢」「リチャード三世」…くらいは分かったかなぁ。

マクベス」は思いっきり「幕兵衛」って役で出てましたが、死に方あんな感じだっけ…??「マクベス」はその昔、マイケル・ファスベンダーマリオン・コティヤールの映画を見ましたが、あんまり記憶になくて…。

そして大好きなトム・ヒドルストンが演じていた「コリオレイナス」はどこの要素だったんだろう…。三世次の傲慢さは、民衆を見下すような態度を取るコリオレイナスからも来ていそうだな~と思ったのですが…。

 

以下、キャスト別感想。

初見だったので、メインキャスト3人のみの感想です。

 

佐渡の三世次:高橋一生さん】

・昨今なぜか「イケメン枠」「王子様枠」みたいになっている一生さん。ですが、今回の舞台を見て、この人は「ヤバい奴」を演じさせたら超一級だなぁと思いました。三世次はおぞましいほど徹底した悪役でしたが、どこか悲哀を感じさせるのが素晴らしかったです。

 

・私が一生さんをきちんと認識したのは、「おんな城主直虎」の小野政次役でした。善なのか悪なのかわからない、微妙なバランスを保ちつつ、視聴者をたっぷり魅了してからの、あの壮絶な死にざまがあまりにも印象的で。「この人のお芝居をいつか生で見てみたいなぁ…」と思ったきっかけもあのドラマでした。

(ちなみに「この役者さん上手だな~」と思ったのは、「信長協奏曲」の浅井長政役でした。名前知らなかったのでずっと「長政くん」って呼んでた)

 

佐渡の三世次役を高橋一生に…と提案した人、天才ですか…!?ちょっとこじらせてるどころではなく、根っこから歪んでねじまがってどうしようもないキャラクターなんですが、イケメンとか王子様じゃなくて、これこそ「私が見たかった高橋一生」だなと思いました。一生さんが心底楽しんでいらっしゃるんだろうなというのも、とても伝わってくるお芝居でした。

 

・印象的な部分は数え切れないほど挙げられます。

登場した時のギラギラした瞳。

「あ、一生さんだ」と分かる独特のまばたき。

舞台上をひょいひょいと動き回る身軽さ。

(三世次がこの世をうまく渡っていくさまを体現しているようにも見えました)

ドラマや映画では全く聞いたことのないような喋り声&歌声。

客席降りでお客さんのオペラグラスを奪って2階席を眺めるお茶目さ(笑)。

後半のとある場面で見せる邪気のない笑顔。

客席全体を引きつけるながーい台詞の言い回しと間のとり方。

(あんな長いセリフ、どうやったら覚えられる&すらすら出てくるようになるんだろう)

2幕で国衆たちが歌い踊っている様子を、まばたきもせずじーーーーーーーっと見つめている表情の不気味さ。

自分が殺してきた亡霊たちに見つめられ、鏡の中の自分の醜さに怯えるクライマックスシーンのお芝居。

すべてが本当にとてつもなく魅力的で、目が離せませんでした。

とあるシーンの出番が終わって舞台袖に捌ける時に、おさち(お光)のことをじーーーーーーーっと見つめてるのも細かすぎて良かった…(お芝居している場所的に、確実に1階下手席と2階席のお客さんにしか見えてないんですよ…)

 

・カーテンコールでは、出演者全員が白い三角布を頭に幽霊巻きして(結果的に全員死んじゃうので…)、♪もしもシェイクスピアがいなかったら♪を歌うんですが、一生さんは上手通路を、浦井さんは下手通路を駆け抜けながら、お互い向き合っておばけポーズしてて可愛すぎました。アラフォー男子2人がかわいいとは…。

さらにカーテンコールが終わって捌ける時に、一生さんが最後1人で客席に向かってぶんぶん手を振り、うらめしや〜ポーズをしながら、舌をべーってしてて、それが最っっっ高に可愛かった…っっっ!!!!!劇中とのギャップに見事に殴られました…!!!!

 

・ちなみに歌ですが、劇中ソロ曲が2つあったかな…?メロディーラインが取りづらそうでしたが、三世次のソロ曲はどちらかというと「歌う」というより「喋る」、という感じだったので、絶大な歌唱力が必要なわけではなさそうでした(というか、逆にミュージカル俳優さんが三世次を演じるのが想像つきません…うまく歌えるかもしれないけど、あの不気味さを出せる人が思いつかない…)

あくまでも個人感ですが、歌がめちゃくちゃ上手いかと言われると、わりと想定内かなとは思いました(これは私が普段ミュージカルばっかり見てるからそう感じるだけかと)

声質はミュージカル向きではなさそうなのと、好き嫌いがちょっとわかれそうかなと。「歌が上手い役者さんの歌」って感じです。ただしそんなことは一切気にさせないお芝居の説得力があったので全く問題なし!!!!!!!!!(結論)

 

 

【きじるしの王次:浦井健治さん】

・直近2年くらいは、劇団四季だけでなく色んなミュージカルを観劇してきましたが、今回やっっっとこさはじめましてだった浦井さん。てっきり私と同世代だと思っていたら、まさかの10歳近く上だったことが判明してひっくり返りました。こんなアラフォーいる…!?!?!?!?一生さんとほぼ同い年ですが、全くそんな風に見えないですし、むしろ「25歳です☆」とか言われても全然信じちゃいそう…。長髪ポニーテール似合いすぎててちょっと意味が分かりません(真顔)

 

・三世次が「陰」のキャラクターであるのに対し、浦井さんの王次はキラッキラの太陽みたいなキャラクターでした。舞台上で彼1人発光してました。全身からみなぎるポジティブオーラ。さすが王子…じゃなくて王次!!

 

・出てきた直後に歌うソロ曲の歌詞がだいぶアレでしたが、浦井さんが歌うとなぜかやたら爽やかに聴こえました。そんなに下品にも感じないのが不思議。笑

 

・2幕のわりと最初の方で殺されてしまうので、「えぇ…もったいない…」と思っていたら、そのあとちゃっかり別役で出てきてて笑いましたw



【お光/おさち:唯月ふうかちゃん】

・「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役以来のふうかちゃん。今回一番大変な役だったと思います。1人2役が本当にあっぱれな演じ分けでした。可愛らしいおさちとかっこいいお光、早着替えでの登場はもちろん、瞬時の演じ分けも素晴らしかったです。あんなコロコロ演じるキャラクターが変わると、どっちがどんなお芝居か分からなくなりそう…頭も体力もものすごく使いそうな役でした。

 

・2幕は一生さんの三世次の、凄まじい負のエネルギーを持つ演技を、ふうかちゃん1人が受け止めるシーンが多くて、そちらも大変そうだなぁと。でも三世次にとどめを刺すのも彼女の役目なので、お芝居のやりがいがありそうだなとも思いました。

 

 

とにかく純粋に「なにこれ楽しい…!」と思える作品でした!