Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2022.9.2 NODA・MAP 第25回公演「Q:A Night At The Kabuki」ソワレ公演:運命にあらがった2人の物語

2019年初演の「Q:A Night At The Kabuki」。上演告知があった当時、ちょうどミュージカル「ロミオ&ジュリエット」にハマった頃だったので、こちらも気になるな~と思っていました。

 

が、その頃はまだストレートプレイをほとんど観たことがなく、そもそも出演者が豪華すぎてチケット取れないだろうな…と、勝手に思い込んでスルーしておりました。

 

この年、3年ぶりに再演が決まったとのことで、1公演だけ確保できたので行ってきました。


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全体的な感想。

 

めっちゃ面白かった

 

 

結末まで観ると「面白かった」で片づけていいものか、ちょっと迷うんですが、野田さんすごいなぁ…という感想が真っ先に出てきました。

 

ロミオとジュリエット」を源平合戦に置き換えるのも、「もしロミオとジュリエットが生き残ったとして、その後幸せに暮らせるのか…」という"IF"の話も、それぞれで語っても面白そうでしたが、それを組み合わせちゃうんだから、一体どういう思考回路ならあんな脚本が書けるんだろうと…。

 

前半はどんちゃん騒ぎで、ときどき客席を爆笑の渦に巻き込むのに、後半は一気にシリアスになって(ときどき笑いが起こるシーンはあるものの)最後にちょっと考えさせられる構成、個人的にはとても好きです。作品全体から受ける衝撃度だったら「フェイクスピア」の方が強かったですが、今後の野田地図作品も観ていきたいなと感じられる作品でした。

 

1幕は完全に「ロミオとジュリエット」で、これが意外と(?)オリジナルに忠実だったので、ミュージカル版が大好きな私としてはとても入りやすかったです。ちょうどこの年は大河ドラマで「鎌倉殿の13人」をやっていたので、源氏・平氏のいざこざの話もすんなりと頭に入ってきました。古今東西、家同士による争いは絶えなかったこと、それによって引き裂かれる人間関係があることへの揶揄なのかな…。

 

2幕は「生き残ったロミオとジュリエット」のお話。源氏・平氏ともに、それぞれの息子と娘を「死んだ人」として、世間からは2人の存在を隠すようになり、やけになった瑯壬生(ろうみお)は一兵卒として身分を隠し、名を捨てて頼朝討伐に向かう…というのが、主な話の流れ。もちろんロミオとジュリエットが生き残った話なんて知らないので、生き残った瑯壬生と愁里愛(じゅりえ)が一体どうなるのか、最後までドキドキしながら観てた。

 

劇中、瑯壬生と愁里愛が何度も「この世から戦争がなくなったら会えるよ!」というニュアンスの言葉を掛け合っていて、恐らくこれまで地球上から戦争がなくなったことがないであろう現実を想って胸が苦しくなりました。

 

あと愁里愛に「名前を捨てて!」って言われた瑯壬生が、最終的にシベリアの地で「無名戦士」として死んでいくことの皮肉。「名もなき英雄」と称えられるかもしれないけど、彼らは1人ずつ名前を持った人間なんだよなぁ…。

 

ちなみに衣装がとっても素敵でした!愁里愛の衣装が全部可愛かったです。全体的に色使いがとても好みでした。

 

以下、雑感。

キャスト別に書こうと思ったんですが、感想に偏りがでそうなので箇条書きです。

 

・とにかく一番びっくりしたのが、広瀬すずちゃんの力量でした。2019年にこの作品で初舞台を踏み、今回が2回目とのことでしたが、正直メインキャスト4人の中で一番声が通ってた気がします。

 

もちろん滑舌が甘かったり、声を張り上げすぎてキンキン響いてしまうこともときどきはありましたが、それでも彼女のお芝居は個人的にわりと衝撃的でした。

 

ありあまるエネルギーをずっと放出している感じでとにかくパワフルでした。身体がすごくよく動くので、細くて小柄でも存在感100%。若さゆえの直情的な行動に全く違和感がなく、「え、瑯壬生死んじゃったの?は?無理なんだけど私も死ぬわ」というような、瑯壬生のいない世界なんて自分にとって価値がないという愁里愛の気持ちが、よく表現できてたと思います。

 

ずっと何かに取りつかれてるようなテンションと表情だったのも好きでした。2幕は落ち着いたトーンの衣装とお芝居になったからか、一気に色気が出てたのがまた素敵で…!圧倒的にビジュアルが良いのはさておき(本っっっ当にかわいかったです)、その印象をはるかに上回るお芝居でした。他の舞台にもぜひ挑戦してみてほしいです。

 

松たか子さんは、以前から舞台で観てみたいと思ってた役者さんの1人。実際拝見すると、ビジュアルはすずちゃんほど派手ではないのですが、なぜか彼女に自然と目を向けてしまうような、引力がある役者さんの印象でした。

 

すずちゃんとの親和性も高くて、あの若き愁里愛が成長したらこうなるだろうな、という印象を全く壊さず演じられていました。

 

映像作品でも、松さんの表情でのお芝居ってそれほど大きく分かりやすいわけではないんですが、声色や喋り方で、キャラクターの心情を細かに表現するのが本当に上手だなと感じます。悲しんでる顔をしていないのに、声から悲しさや無念さ、寂しさが全部伝わってくるんですよね。

 

・女性陣2人に対して、瑯壬生役の2人は(あくまでも個人の感想ですが)ちょっとインパクトが弱かったです…。特に志尊さんはほぼ印象に残らなかった…。

 

ただあれで愁里愛と同じテンションでお芝居をしてしまうと、ただただうるさい&ツッコみ不在になりそうなので、一歩引いたお芝居というのがうまかったんだと思います。

 

上川さんはさすがベテランといった風格があり、2幕は出番も多かったですが、やはりそこまで印象に残らず。すずちゃんと松さんのインパクトがあまりにもでかすぎたんだ…。

 

・乳母のUber(笑)は野田さんご本人が演じていらっしゃいました。相変わらずセリフの3分の1は何言ってるんだかわからなかったですが、もう出てくるだけで面白いからずるいです。「山の日は一体何を祝福するの日なのか」問題に笑いましたw

 

・布の使い方がすっごくきれいな作品でもありました。とあるシーンでベッドの上を大きな白い布が何度もかぶさるんですが、女性がたった2人で上手に操っていて、その動きがあまりにもキレイだったので、役者さんそっちのけで見とれてしまいました…。

 

・元々「ボヘミアン・ラプソディ」が日本でヒットする2年前くらいに、QUEEN側から「野田さんに『オペラ座の夜』をモチーフに使った演劇作品を創ってほしい」という要望があったらしく、それがきっかけでできた作品だそうです。

 

というわけで、全編にわたってBGMがQUEENでしたが、個人的にはそんなに必要な要素とも感じられず、むしろない方が良いかなぁとさえ思ったくらい。そもそもQUEENからの打診がなかったらこの作品はなかったので、そういう意味ではないと困る要素ではあるのかもしれませんが…。

 

フレディの声が爆音で流れたかと思いきや、一気にボリュームダウンして役者さんのセリフが始まったり、セリフが終わるとまたBGMが大きくなったりと、正直演じるのに邪魔なのでは…と感じました。

 

ロミオとジュリエットはたった5日間の恋愛模様なのですが、野田さんはそれを「432,000秒の恋」と表現していて、より刹那的な印象が強まりました。舞台上にときどきカウントダウン中の秒数が映ってるのも良かったです。

 

・野田さんがこの作品を通して伝えたいことってこんなことかな?というのは断片的に拾えたものの、一度だけじゃ結構大変でした。1回観たらある程度テーマがつかめるような人間になりたいものです(切実)

 

「フェイクスピア」もそうでしたが、野田さんは「書き記された言葉」よりも「人間が実際に発した声」を大事にしてるのかなと。瑯壬生が愁里愛に充てた最後の「手紙」も、平の凡太郎(たいらのぼんたろう)を通じて声で伝達されましたし、声を通したコミュニケーションに重きを置いてるんだろうなと感じました。