Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2022.3.19 音楽劇「夜来香ラプソディ」マチネ公演:苦しい時こそ美しい音楽を

木下晴香ちゃんが李香蘭を演じるということで、1公演だけ観に行くことにした「夜来香ラプソディ」。


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太平洋戦争中の中国・上海を舞台に、日本人作曲家・服部良一と、中国人作曲家・黎錦光、日本人でありながら自らを中国人と偽って活動している歌姫・李香蘭の3人が、戦時中であっても「音楽」を人々に届けたいと、コンサートを開くために奮闘する物語。史実を基にしている作品で、ところどころ耳慣れない言葉はあったものの、特にストーリーが難しいわけではなかったので、予習はなくても問題はありませんでした。むしろ李香蘭が本当は日本人だったなんて知らなかったので、彼女が自らの正体を明かすシーンでは純粋に驚けました(無知)

 

以下、まとまらなかった雑記メモ感想です。

 

・物語の面白さ、役者陣の力量、楽曲の良さのバランスが取れた、よくできた作品だなと思いました。人々の命が脅かされている状況下であっても、果たして「音楽」は必要なのか、というテーマが、皮肉にもコロナ禍に非常にマッチしていて、そういった意味でも感情を入れて観やすい作品でした。きっとコロナ禍であることを少しは考慮に入れて、テーマを選んだり脚本が書かれてたんだろうと思います。

 

・全編を通してというわけではありませんが、私たち観客は「夜来香ラプソディ」というコンサートに招かれた「お客様」という形で話が進む流れになっていた演出が好きでした。冒頭は客席の扉から憲兵(役の役者さんたち)が何人も入ってきて、客席を見回り、それが終わると松下さん演じる服部が登場。客席に向かって指揮をしたり、語り掛けたりする演出になっていました。

 

・劇中では、コンサートの時間軸と、そのコンサートが開かれるまでの時間軸が交互に登場し、コンサートシーンでは各キャラクターのソロ曲を披露して、それぞれ曲が終わると私たちが拍手を送るという形でした。テーマはもちろん、この「観客を登場人物の一員にしてしまうこと」も、作品への没入感が深かった要因かもしれません。

 

・とにかく物語がとても面白かった…!史実を基にしているということに驚きますが、敵味方関係なく、音楽を愛した3人が純粋に仲を深めていく様子がとてもあたたかく感じられました。1幕と比べると、2幕はややテンポが鈍くなるかな…と思いましたが、それは「夜来香ラプソディ」というコンサートを開くうえで、純粋に「音楽が好き」という気持ちだけでなく、裏で日本や中国の偉い人たちが糸を引くさまが、なんとなく重たく感じたからかもしれません。

 

・楽曲はほとんど知りませんでしたが、ああいうどこかノスタルジックなメロディーラインは個人的に好きなので、当時どういった曲がヒットしていたのかを知ることができてよかったです。とはいえ、シアターコクーンは音響がイマイチで、さらに私は前方席だったからか、バンドの音が役者さんたちの歌声の音量を上回ってしまい、かなり聞きづらかったのは残念でした。シアターコクーンは音楽劇やミュージカルもいろいろ上演してますが、正直あまり適してないような…。

 

・衣装は、特に女性陣の衣装が美しかった!プリンシパルキャストの女性陣はほぼ全員チャイナドレスで、揃いも揃ってスタイルの良い方ばかりだったので、見栄えが素晴らしかったです。

 

・木下晴香ちゃんが演じた李香蘭は、凛としてて華やかで美しい歌声の持ち主。まさに晴香ちゃんにぴったりの役柄でした。私が晴香ちゃんを初めて舞台で観たのは、確か2019年の「ファントム」でしたが、そこから実にさまざまな役を演じてこられて、1つずつ着実にレベルアップしてきたんだなと感じました。

 

・今回はカンパニーの中では若手だと思いますが、やはり役柄的に3番手ということもあり、それなりの貫禄も感じたのが個人的には驚きでしたし、素晴らしいなとも感じました。1点挙げるとすると、セリフを話すときの声の大きさが少し気になるので、そこはやっぱり経験なのかな…。(ささやくように話す部分とか、声を張らないようにしてるんだと思うけど、結構聞こえにくくなるなと)ここからまたどこまでレベルアップするんだろう?ってとても楽しみになる役者さんです。これからもわくわくさせてくださいませ…!

 

服部良一役の松下洸平さんは、近年ものすごく勢いのある役者さんですが、私は映画やドラマで見たことがなく、唯一知ってるのが「ぐるナイ」のゴチになります!に出てたことのみ。なので、失礼ながら役者という印象はあまりありませんでした。熱量が伝わるお芝居ではありましたが、個人的にはそこまでピンとこなかった…。2幕の終盤、コンサートを開くにもあまりにも障害が多すぎて、服部が苦悩するシーンがあったんですが、松下さんの感情の起伏のつけ方と、私が「ここでグッときたい…!」というポイントが全く合致せず、恐らく感動できるシーンだったとは思うんですが、ただただ「お芝居を見る」のみで終わってしまいました。かつて「スリル・ミー」で「彼」を演じていたそうなのは、なんとなく納得しました(謎)いつか「彼」役として復活してくれたら観てみたいなぁ。

 

印象的だったのは壮一帆さん。男装の麗人と呼ばれた川島芳子という女スパイを演じていましたが、さすが元宝塚男役である素質を存分に活かした役柄でした。宝塚を観たとき、男役さんに全然惹かれなかったんですが、壮さんの川島芳子はめちゃくちゃかっこよかった…。私も「お兄ちゃん!」って呼びたいです(李香蘭川島芳子をそうやって呼んでたので。笑)

 

総じて満足度の高い作品でした!