Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2022.3.12 「千と千尋の神隠し」マチネ公演:トンネルの向こうのあの世界へ


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特にこの映画のファンというわけではないのですが、私がこれまで見た数少ないジブリ作品の中では一番印象的ですし、純粋にあの世界観を、ジョン・ケアードがどうやって舞台上に再現するのか、興味津々でチケットを確保しました。

 

映画のイメージだと、千尋上白石萌音ちゃんが良いのかな~と思いましたが、「ナイツテイル」ですでに見ていたのと、今回はミュージカルではないため、初舞台の橋本環奈ちゃんの千尋の回にしました。ハク、カオナシ、リンも見てみたいキャストでそろえて、湯婆婆は映画でも声を担当していた夏木マリさんという豪華さ…!


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全体的な感想としては、観られて本当に良かった…!というのが一番です。素直に素晴らしいと思えました。制作陣がこの作品を心から愛していて、その愛が舞台の隅々までいきわたっており、客席側にもしっかり伝わってきました。原作への愛とリスペクトが溢れている舞台って本当に素敵。

 

よく考えてみると、ディズニー作品はあれだけ舞台(ミュージカル)化されてるのに、ジブリ作品は1つもないの、どうしてでしょうね?「風の谷のナウシカ」は確か歌舞伎になってましたけど。日本が世界に誇れるアニメーション作品がたくさんありますし、ミュージカルでもストプレでも、いくらでも作れそうなのに…。

 

一番気になっていた「あの世界観をどうやって?」の部分。実にアナログな演出でしたが、それがあの世界観を表すのにぴったりでした。「ライオンキング」に似てるかな?同じくジョン・ケアード演出作の「ナイツテイル」もわりとアナログだったので、きっとそうなるんだろうとは思ってましたが、「そこは機械でもできそう」というところも、あえて人の手で動かすという選択を取っていました。

 

千尋と竜になったハクが空を飛ぶシーンも、役者をワイヤーで吊るとかではなく、8人くらいで千尋とハクそれぞれの身体を持ち上げて、飛んでるように見せてました。よりリアルに見せるなら絶対にワイヤーが良いと思いますし、人が持ち上げてるのことへの違和感がないと言ったら嘘になりますが、演出として人力のみに頼るという一貫性はありました。

 

個人的に好きだったのは、怒り狂った湯婆婆の顔が大きくなるシーン。これは(おそらく)湯婆婆役の夏木さんと、他5名くらいのアンサンブルさんたちが、湯婆婆の巨大な顔のパーツをそれぞれ持って、それらを動かして表現してました。「ライオンキング」で、亡くなったムファサの亡霊が成長したシンバに語り掛けるシーンと同じ手法なんですが、変身までの動きがとてもスムーズで「映画と一緒だ~!」と大興奮したシーンの1つでした。巨大化した湯婆婆の目のパーツに、5本ずつくらいちゃんとまつ毛が生えてたのが妙にツボ。笑

 

あとオクサレ様が「良きかな…」と飛び立っていくシーン。帝劇の客席側であんな演出ができるなんて知らなかったです(1階客席頭上を下手から上手に飛んでいき、舞台奥に消えていくオクサレ様)

 

思い返してみると、手法1つ1つはそれほど目新しいわけではないんですが、「そのシーンを表現するためにどの手法を用いるか」が全部適切で、きっといくつかあったであろうアイデアや選択肢の中から、最適な手法を選んでるんだろうなと感じました。何枚もある扉が次々に開いてそこをキャラクターが駆け抜けていくのも、扉を持ったアンサンブルさんたちが数人いて、扉を素早く動かすことでいかにもキャラクターがものすごい速さで走っていくように見せてました。

 

最後まで腑に落ちなかったのは、坊のキャラ造形。坊はおそらく女性のアンサンブルさんが、巨大な肉襦袢を着て演じてたんですが、1人だけどう考えても映画と違うサイズ感。おしらさま(でしたっけ?あの白っぽい巨大な神様)が着ぐるみで出てきてるのに、坊のサイズはそれでええんか…?となってしまいました。他が忠実だっただけに、なぜあそこは妥協したのか、顔見せせずとも巨大な手足を出して、声だけ当てるのでも良かったのでは?と思ってしまいました。

 

舞台として素晴らしい、とは思ったものの、それはあくまでも「映画の再現性が非常に高かった」という意味で、例えばこれを「千と千尋の神隠し」を全く知らない人が観たらどう思うんだろう、という部分は少し気になりました。正直物語はずば抜けて面白いと思わないですし(日本版不思議の国のアリスだからなぁ…)、観てるとかなりセリフが最小限に感じられて、「一度でも映画を見ていることが前提」として作られているような気がしました。あくまでもあの映画のシーンをすべて再現しようとして頑張ったんだな、という評価に、どうしてもなってしまいます。感情移入とかも特になく、ただ映画のシーンの再現を3時間見続ける印象でした。

 

ただしそれが立派にエンターテインメントとして成り立っているので、これはこれで全然アリだと思いますし、もしかしたらこのまま海外に輸出しても結構うまくいくんじゃないかなぁ…。

 

以下、キャスト別感想。全員素晴らしかった~!

 

千尋:橋本環奈ちゃん】

・おそらくしっかりお芝居を楽しむのであれば、舞台経験が豊富かつジョン・ケアードとたびたびタッグを組んでる萌音ちゃんを選ぶべきだろうということと、環奈ちゃんのお芝居をほぼ見たことがなかったので、そもそものお芝居のクオリティという意味で正直不安がないとは言えませんでした。そして実際観劇してみて、瞬間を切り取ってみると、お芝居ではなく「次どう動くんだっけ」という部分に頭が動いてそうだなと思う箇所もありました。が、初日からそれほど経ってないわりにかなり仕上がっていたのと、何よりとても肝が据わってそうなオーラを感じて、この子なら大丈夫だなと感じました(超上から目線感想)肝が据わってそうなのに、ちゃんと「10歳」に見えるのもすごい…!

 

・舞台経験豊富な人たちに囲まれて、さぞかし大変だったんだろうとは思いましたが、不思議な世界に飛び込んだ千尋と、初めての舞台に飛び込んだ環奈ちゃんの境遇がある意味リンクしていて、個人的には彼女の千尋を観られて良かったです。

 

・ポスターが出た時、萌音ちゃんはそもそもアニメの千尋に顔が似てる、みたいな話が出てましたが、全体的なフォルム(?)は環奈ちゃんの方が近い気がしました。あの手足がひょろりとした頼りなさそうな感じとか…。

 

・お顔がとっても小さいので、舞台上での表情での表現はなかなか限界がありそう?オペラグラスで表情を観ると、本当にどのシーンでもかわいかったんですが、もう少し挙動がオーバーな方が伝わるのかもなと、2階席後方最上手から観て思いました。ちなみにオクサレ様を案内してる時の「くさい~~~~」って顔が(というかそんな表情すら)めちゃくちゃかわいかったです。さすが千年に一人の逸材と言われるだけありますね…。

 

・ちょっと懸念してた環奈ちゃんのハスキーボイスでしたが、幼く聞こえるようおそらくやや高めのキーで発声しており、セリフも特に聞きづらいと思うこともなく(滑舌はやや滑るところもありましたが)、きっと千穐楽までにはとてつもなく成長するんだろうなと、伸びしろを感じるお芝居でした。

 

・どちらかというと1幕のお芝居が良かったかな?所在なさそうな、どこか不安げな所作が上手でした。最初に釜爺のボイラー室に入った時の、「どうしたらいいかわからず、おろおろしながらただ突っ立ってるだけ」なシーンとか。

 

・2幕は銭婆とのシーンが好きでした。夏木さんが、おそらく環奈ちゃんを孫みたいに可愛がってるんだろうなと思える、2人の間に流れる温かい雰囲気が素敵すぎました。

 

【ハク:三浦宏規さん】

・「レ・ミゼラブル」「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」で拝見した三浦さん。端正なお顔立ちですし、そもそも2.5次元ミュージカルのスター俳優さんなので、ハクもお手の物だろうと思ってましたが、本当に美しかったなぁ。あの髪型とメイクが似合うのがすごすぎる。

 

・これまで観たミュージカルでは、歌とお芝居のみしか観られなかったのですが、そういえばバレエがものすごくお上手なんでしたっけ…?今回はその高い身体能力も楽しめました。1幕の中盤頃、湯婆婆に命令されて龍に変身するんですが、変身する瞬間、めちゃくちゃ高いジャンプしながら空中で3回転くらいしてて「はいいいい!?!?!?」ってなりました…。そこ氷上じゃないんですけど…普通に舞台の上なんですけど…どういうことですか…(呆然)

 

・ちょっと惜しかったかなぁ…と思ったのは、おそらく映画のハクを意識しすぎるあまり、ささやくような発声のセリフが多くて、語尾が聞き取りづらいシーンが多かったこと。もう少し声張っても良かったのでは…?

 

カオナシ:菅原小春さん】

・唯一映画と異なる印象を受けたのはカオナシでした。基本的には映画どおりのキャラではありますが、演じる菅原さんは超一流のダンサー。というわけで、ところどころキビキビとコンテンポラリーを踊るカオナシが楽しめました。あのお面のままシャキシャキ動くのはなかなかシュールでしたけど。笑

 

・お顔見せないの残念だな~と思ってたら、カーテンコールで舞台袖からものすごい勢いで走ってきて、膝立ちスライディングをしながら仮面をぱっと取ってにこ~~~って笑った菅原さんに惚れてしまいました。かっこいいしかわいい。さっきまであんなに陰気なオーラを放っていたのに…。

 

【リン/千尋の母:咲妃みゆさん】

・咲妃さん、どの作品も本当に本当に抜群にうまい…!ミュージカルでもストプレでも、歌もお芝居も上手ですし、いつだって安定してますし、ただただ素晴らしい役者さんだなと思います。宝塚時代も拝見したかったー!

 

・リンと千尋の母の二役演じてるとは、言われなければ全く気付かないだろうと思えるくらいの違いでした。ビジュアルの声色はもちろん、まとってるオーラまで完全に変えてくるんですよ…天才か…。

 

・リンがとにかく超ハマってました。映画から抜け出てきたみたい。ていうか映画で声担当してたっけ?レベルでした。

 

【釜爺:田口トモロヲさん】

・釜爺は見た目がそのまんま。キャラというよりも、何本もある彼の腕を操るアンサンブルさんに目をひかれました。

 

・ちょいちょいアドリブ混ぜてました…?開幕からそれほど日が経ってないのに、すでに楽しんでるような余裕を感じ、さすがベテラン役者さんだな~と思いました。

 

【湯婆婆/銭婆:夏木マリさん】

・夏木湯婆婆の第一声を聞いた私(&客席全員)「「「「「本物だああああああああああ」」」」」」(それはそう)

 

・やはり本物は強かった…!映画に思い入れがない私でも、彼女が出てくるだけでわくわくしてしまいました。

 

・映画で声を当てた人が、実際にその作品が舞台になっても同じ役を演じる例だと、今のところブロードウェイ版「アラジン」のジャファー役だった、ジョナサン・フリーマンさんしか存じ上げないのですが、そういう役者さんっておそらく「映画を再現すること」をお客さんに求められてる気がするので、なかなか舞台版でお芝居を変えるのは難しいんだろうな…と思います。となると、お芝居ではなく映画の再現になってしまう気がするんですが、この場合はそれでいいのかな…という部分はやや気になりました(長)

 

・夏木銭婆のセリフ回しがすごく温かくて…。銭婆の家から湯屋に帰るとき、千尋が自分の本名を銭婆に告げるんですが、銭婆の「いい名前だね。自分の名前を大切に生きていくんだよ」というセリフでちょっと泣けました。映画だと全然泣けなかったのに…!

 

その他キャストの中では、おばたのお兄さんがかなり活躍してました。青蛙のパペットをずっと中腰で操っててかなり大変そうでした。ずっとあの声色で話すのもしんどそうでしたが、芸人としてのアクの強さを一切出すことなく、カンパニーの一員として120%馴染んでいるのが素晴らしかったです。

 

とにかく本当に観られて良かった!Wキャストの別チームも観てみたかったので、再演も是非観たい作品です。