2021年12月末に観て以来の「SLAPSTICKS」。年明けのシアタークリエ公演を観ました。
初見ではいまいち何を伝えたいのかよくわからなかった作品。今回観てもやっぱりつかみきれず、個人的にこんなにも「ほんわかした印象の作品」は珍しい気がしています。ただシアタークリエ公演までに全国をまわって上演されていたからか、全体的にブラッシュアップされているのは感じられました。作品自体も、シアター1010よりシアタークリエで上演するのが合ってるように思います。
作品全体としては「サイレント映画」から「トーキー映画」への変遷と、その渦に巻き込まれる人々の悲喜こもごもを描いているんですが、単に「あの頃は良かったね」というテーマなのか、それ以外に何かテーマがあるのか、よくわからなかったです(個人感)。
座席は実質最前列(2列目だけど、最前は空けたまま)ということで、各役者さんのお芝居はかなり堪能できました。
ビリー役の達成さん。シアター1010公演よりも「ビリーを演じることを楽しめてる」様子が伝わってきました。セネットさんから預かった「白い粉」を、うっかり吸い込んじゃうシーン、粉をぶちまけすぎてこちらまで粉のにおいが漂っていた上に、自分の顔にも思いっきりぶちまけたようで、顔の右半分真っ白になってたのが面白かったですw
パパにアリスを紹介するシーン、小西パパから軽くビンタされてて、ほっぺた抑えながら「ホントにビンタするじゃん~~~~~」って笑いながら悶絶してたのも思わず笑いましたw
しかし本当にスタイル抜群ですし、顔小さいですし、目ヂカラはバキバキですし、くるくる変わる表情を見てるだけでとっても楽しい役者さんだなと改めて感じました。
印象的だったのはアリス役の桜井玲香さん。乃木坂46を辞めて結構経ってるのでこう言っては失礼かもしれませんが、さすが元アイドル…!信じられないくらいかわいらしく、まるでお人形さんのようでした。最前だから達成さんを観よう~~~って思ってたのに、気づいたら玲香ちゃんを追いかけてました。笑
それにしても、アリスは一体なんであんなにキャラが変わっちゃったんだろう…。ビリーと付き合ってるときはよく笑う明るい女の子だったのに、ロスコー・アーバックル事件の証言者としてラジオに出演したときには、信じられないくらい暗い女性になってて…。特段彼女に何かあった、みたいな描写はなかったんですが、映画が「サイレント」から「トーキー」に変わったように、人も年月とともに変わっていく…みたいなことなのでしょうか。
ロスコー・アーバックル役の金田さんも良かったです。「はんにゃ」として活躍されてた頃はよくTVで見ていたので、まさか舞台で役者さんとして観ることになるとは思いもよりませんでした。
結局最後まで観ても、アーバックルが本当にヴァージニアを殺してしまったのか、それとも彼は何も悪くなかったのか、真相は闇の中で終わるんですが、金田さんは善人にも悪人にも見える、絶妙なテンションのお芝居と表情が印象的でした。アーバックルが「いつも人を笑わせている喜劇王」としての一面だけでなく、1人の人間として「酒も飲むし、クスリもやる。人も殴る」んだろうという、あの雰囲気の表現が素晴らしかったです。
劇中、一番印象深かったのは、セネットさんとメーベルさんの会話でした。
メーベルさんはトーキー映画の終焉を感じ取っており、自らの女優としての身の振り方を考えるんですが、セネットさんはサイレント映画にこだわっていて、メーベルさんを引き続きサイレント映画に登場させようとします。
メーベルさんは「今に映画の中で人が話すようになるし、そのうち映画館じゃなくて家でだって映画を見ることができるようになる。そしたら誰がサイレント映画なんて見る?」というニュアンスのことを伝えます。
それに対してセネットさんは「そんなの300年後の話だろう」と一蹴するんですが、そこでこの物語が「1921年」の出来事であることを思い出し、ほんの100年でメーベルさんの予言通りになってるな…と、時代の移り変わりの速さにびっくりすると同時に、私が思っている以上に「映画」というエンターテインメントはものすごい速さで形を変えていったんだろうし、その速さに追いつけない人たちがたくさんいただろうことも、容易に想像がつくなと思いました。私が知ってる「映画の進化」は、せいぜいIMAXとか4DXくらい。サイレント映画からトーキー映画レベルの衝撃は、今後ないんでしょうね…。
再演があってもおそらくもう観ないとは思いますが、役者さんたちの表情豊かなお芝居は存分に楽しめる作品でした。