Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2021.01.23 ミュージカル「パレード」:これは昔話なんかじゃない

ミュージカル「パレード」は、3年前の初演のときに「すごい作品だった」ということを、ちらほら噂には聞いており、頭の片隅の方でずっと気になっていた作品。

 

今回、知り合いのミュージカル好きの方に激推しされ、その方にチケットを取っていただいて(とっても良席で申し訳なくなるレベルでした)、初めて観に行ってきました。


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*この先、ネタバレを含んだ感想になります。

 

 

 

 

 

 

 

1幕のラスト、色とりどりの美しい紙吹雪が舞う中、人々が楽しそうに笑いながら踊る一見楽しそうな光景を、生まれて初めて「地獄だ」と思いました。観劇前にはなんとも思わなかった宣伝用のポスターを見て、「うわ……」ってなってしまうくらい。しばらくは紙吹雪見たら多分吐きます(トラウマ)

 

観劇した人が、皆一様に「つらい」「しんどい」「席から立てなくなった」などなど、すさまじい感想ばっかり並べているのを見て、観劇前からよくも悪くも震えていましたが、実際に観て納得しました。

 

でも観劇後は、自分の中でさまざまな感情が渦巻き、想像以上にいろいろと考えさせられる作品でした。観ていて楽しい・わくわくする作品ではないので、観るのにそれなりの覚悟が必要ではありますが、誰でも1度は見るべき作品だと思います。どんな人でもレオになりうる可能性があるし、レオを極限まで追い詰めたジョージアの人たちになる可能性もあるのだから。

 

語彙力も思考力も足りてない人間なので、うまく順を追って感想を書けない…ので、箇条書きでばーっと感じたこと・考えたことを書いてみます。

 

・最高にして最悪な演出だな、と思ったのは、先ほども書きましたが、1幕ラストでレオの絞首刑が決まった瞬間、おびただしい量で降ってくるカラフルな紙吹雪と、その中で「絞首刑だ!!」と叫んで狂喜乱舞するジョージアの人たち、さらにその中心でたった2人、寄り添っておびえているレオとルシールの場面でした。

 

あの一見楽しそうな場面を、最悪の気持ちで迎えたまま幕が閉まるという、拍手する気すら根こそぎ奪っていく幕切れでした。客席も「え、嘘でしょ……」みたいな戸惑いの空気が感じられました(私も戸惑った)もちろん2幕の終わり方(=物語の結末)も最悪なものではあったけど、個人的には1幕ラストが1番衝撃的でした。

 

・役者さんが、舞台上から客席に問いかけているような演出が何度かあって、あれも観ている側としては(というか私個人としては)結構きつかったです。

 

判のシーンでは「陪審員の皆さん」と、検事のヒュー・ドーシー(石川禅さん)が客席を陪審員席に見立ててこちらに呼びかけてきたり、メアリーに死はいかに痛ましいものであったかを説明したり、思わず彼の話術に引き込まれてしまいました。

 

そのあとも「あなたならどうする?」みたいな呼びかけが、客席に向かって投げかけられてて、目の前で起こる悲劇から目を背けようとすると「あなたも無関係じゃないんですよ。傍観者ではいられないんですよ。見て見ぬふりをするんですか?そんなの許されませんよ」と腕を掴まれるような、そんな気持ちになりました。

(結構前方の席だったので、禅さんとときどき目が合ってるような気がして怖かったです)

 

・事件発生当日の描き方と、証言シーンでの石丸さんの(迫真の)お芝居のせいで、レオが本当に無実かどうか、途中ちょっと信じられなくなってる自分がいたのも怖かったです。

 

事件発生当日の描写としては、給料を受け取りに来たメアリーがレオにお礼を言った後、事務所を出ていこうとして一旦立ち止まり、事務所に戻って「フランクさん!」と笑顔でレオに呼びかけるところで暗転します。その後のシーンでは、メアリーはすでに殺されて遺体となって登場するので、「あのとき、もしかしたらメアリーがレオに何か余計なことを言って、それが原因でレオが手をかけたこともあるかもな…」と、勝手な想像ができる作りになってました。

 

証言シーンは、若い女工3人が「レオに休憩中に事務所に呼ばれて嫌がらせを受けた」といった嘘の証言を、ご丁寧にレオも参加しての「嘘の回想シーン」で演じるので、レオが本当はそういう人であっても不思議ではない、という気持ちが勝手に芽生えたりしました。

(変態と化したレオを演じる石丸さんのお芝居がうますぎたということにしておきたい)

 

どんなに凶悪な1人の犯罪者よりも、「これが正義だ」と信じる気持ちを持った普通の人たちが、群れをなして罪なき1人に襲いかかる。これがどんなに恐ろしいことかを、まざまざと見せられた作品でした。そしてこの「パレード」の時代よりも、SNS等がある現代の方が、さらにそういったことが起こりやすくなっているのではと感じました。これまでに何人もの「レオ」が存在したのだろうし、何人もの「正義を信じるジョージアの人たち」がいたんだろうなと。そしてそれは悲しいけれど、きっと今後もずっと続いていくんだろうなと思いました。

 

・唯一少し救いがあったのは、レオとルシールの関係性。私はてっきり「仲睦まじく暮らしていた夫婦が、突如いわれのない事件に巻き込まれる」的な展開かと思っていたら、別にはじめから仲睦まじい夫婦というわけではなく、どちらかというと価値観がズレてて相容れない夫婦でした。それが皮肉にも、事件をきっかけにお互い歩み寄るようになって、レオが絞首刑から終身刑になって、刑務所内で働くようになったあの時が、夫婦にとって一番強い絆で結ばれてた瞬間だったのだなと。だからこそ、その後の悲劇が余計際立って見えました。

 

・レオに「とどめを刺した」のは、被害者であるメアリーの友達でしたが、とどめを刺す瞬間のせりふが「メアリー、君のためだ!」で、もはやメアリーを盾に、間違った正義を貫こうとするあの姿勢が悲しすぎました。彼はあの後、死ぬまでその行為を「正義だった」と信じ続けていたのかな…。

 

・こんな地獄のような話を、圧倒的歌唱力を持った俳優さんが結集して演じてるのがまたいい意味でタチが悪いと思うんですよ!!!!!!!(叫)アンサンブルさんを含め、とにかく全員すんごい歌唱力の持ち主ばかりでした。

 

中でも劇団四季出身の役者さんはさすがで、石丸さんはもちろん、今井清隆さんと坂元健児さんが特に素晴らしかったです。

 

今井さんは、ジョージアの人たちを扇動する嫌な役どころでしたが、とにかく歌がうまい上に、ものすごく美声で聴き惚れてしまいました。

 

サカケンさんは、初めて舞台で歌声を聴きましたが、確かに♪心配ないさー!♪って歌い出しそうな陽気さがありましたな…wそして歌がうますぎる…(語彙力)

 

個人的に注目していたメアリー役の熊谷彩春ちゃん。当初キャスティングされていたフランク莉奈さんの代役として、開幕1か月を切った時点で出演が決まるという、なかなかとんでもない展開でしたが、物語のキーパーソンとしてしっかりカンパニーに馴染んでて素晴らしかったです。出番としては少ないんですが、彼女の天真爛漫さが暗い物語の中で唯一の救いでした(開始15分くらいで死んじゃうんですけどね………………)

 

・上演されている時期に何度も観たり、マチソワなんてしたらこっちのメンタルが死にそうな演目でしたが、今後もきっと定期的に再演されそうな作品なので、そのたびに1度は、自戒を込める意味も含めて観続けていきたいと思います。

 

(再演が決まるかどうかより、あの歌うまさんたちを集め続けるのが大変そう…)