Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2021.04.04 ミュージカル「スリル・ミー」:ハッピーバースデー・トゥ・ミー、スリル・ミー

*盛大にネタバレしているため、何も知りたくない人はUターン推奨です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前から「スリル・ミーはすごい」という噂(?)は聞いており、気になっていたのですが、今回やっとこさ初めて観ることができました!

 

事前に知識としてあったのは

 

「役者2人と、ピアノ伴奏のみのミュージカル」

「幕間無し、100分間の上演」

「子供を猟奇殺人したエリート学生の物語」

 

という情報くらい。

 

なんとなく、この2人は恋人同士のような設定なんだろうなという予測もしてました(キスシーンうんぬんみたいな話は聞いていたので)

 

今回観劇したペアは、今年初めてキャスティングされた松岡さん&山崎さん。私自身がこの作品初観劇で、松岡さん&山崎さんも新ペアだったので、先入観なくまっさらなイメージで見られるかなと思い、あえてこのペアを私の初「スリル・ミー」に選びました。我ながら、この選択は正解だったと思います。

 

ところで観劇を趣味にしてから、毎年仕事を休んでバースデー観劇をすることに決めていて、例年は劇団四季の作品を選んでいましたが、今年は「スリル・ミー」を選んでみました。うん、誕生日記念に観る作品ではなかったかな。笑


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全体的な感想。

なるほど、こりゃすごいな。

 

まずあの狭いハコで、100分間、役者2人とピアニスト1人だけで物語を紡がなくてはいけないなんて、こちらの想像以上に大変なことだと思います。

 

もちろん物語や楽曲はあらかじめ用意されているものですが、100分間、観客をあの世界観に没入させないといけないのは、役者さんへの要求としてはなかなかハードルが高そうでした。

 

2人しか出演していないため、万が一でもミスをした場合に相当目立ちますし、たとえミスが客席側にはわからずとも、動揺が顔に出ちゃうと、ミスが何なのかは分からずとも多分バレるのだろうなと。そういう意味でも「スリル」が味わえるのではと思いました(演者も客席も)

 

ちなみに1人で観に来てる人が多かったのか、たまたまそういう客層だったのか、それとも「スリル・ミー」の開演前は必ずそうあるべきなのか、開演15分前くらいから客席が恐ろしく静かでした。今の状況であれば、あれが客席で観る我々の側としての「正しい観劇態度」でしょうね…。

 

演出でびっくりだったことは2つ。

 

まずは「私」が客席から登場したこと。コロナ禍以降、少なくとも私が知ってる範囲では、客席降りや客席から登場という演出はなくなっていたので、かなり驚きました。

 

最初は階段をゆっくりと降りてくる足音だけが聞こえてたため、「開演間近なのに、ずいぶんのんびり歩いてくるお客さんがいるのね…」と思って通路側を振り向いてみたら、「私」役の松岡さんでした。笑

 

もう1つびっくりだったのは、キスシーン。こちらもコロナ禍以降は、どんなラブストーリーであれ(「ローマの休日」ですら)宝塚式のキスシーンになってたのに、この作品ではがっつり濃い目のキス。出演者が2人だけな上にペアは固定なので、特に気にせずとも良いんでしょうね。

 

物語としては、もっと抽象的な話で、観る側に想像させるような作品なのかと勝手に思ってたので、案外ストレートな表現やセリフが多くてわかりやすかったです。

 

一方で、作品の印象や雰囲気が、ペアごとに変わるというのはとてもよくわかりますし、ペアごとにそれぞれまったく違ったスローガンがつけられている、というのも納得でした(この時点で他ペアは観ていませんでしたが)

 

松岡「彼」と山崎「私」は圧倒的に若くて、人としても役者としても、いい意味でまだまだ未熟。技術勝負ではなく、若さゆえにほとばしる感情を全面に打ち出したペアという印象でした。

 

感情がピークに達したシーンでは、正直歌詞がうまく聞き取れなかったのは、今後直るといいなと思いましたが、とにかく勢いがすごくて、そのエネルギーに圧倒されました。

 

ちなみにこの作品はさまざまな国で上演されてるようですが、日本版に限り(?)役名が「私」と「彼」になっているそう。実際の事件を基にしているので、他の国ではその人物名がそのまま役名になってるみたいです。

 

「私」と「彼」って面白いな~と思うけど、言葉の意味的に、どうやっても「私」視点で観ざるを得なくなるような気がします。

 

(とはいえ最後まで見ると、「私」もこちら側の人間ではないんだよな、と思うので、結局のところこの2人の気持ちは、どちらもあまり理解できなかったんですけど)


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以下、キャスト別感想。

 

【私:松岡広大さん】

ねじまき鳥クロニクル」と「INSPIRE 陰陽師」で観てるんですが、観る演目と彼の役柄のせいか、ほぼ印象には残っていない役者さんでした。というわけで、実質今回がはじめまして。ぱっと見は大野拓朗さんや平間壮一さんに雰囲気が似ていました。目がくりっとして、愛嬌がある顔立ちで、子犬っぽいかわいらしさがありました。

 

1番印象的だったのは、年老いた今の「私」と、19歳の「私」の瞬時のお芝居の切り替え。身体の使い方や発声の仕方、声のトーンがよく工夫されていたのはもちろん、全身から発するオーラまでしっかり切り替えていました。終演後に調べたらまだ23歳とのこと。えぇ…あの落ち着き具合から、もう少し上の年齢かと思ってたよ…。

 

山崎さんとの身長差が大きいことも相まってか、前半はその必死さやけなげさがとても可愛らしく見えたんですが、そのかわいらしさを残したまんま、後半の展開になるため、終盤はにこやかな表情が恐ろしかったです。

 

釈放されたあとの「じ、ゆ、う…?」というセリフが印象的でした。「私」の生きる意味はきっと「彼」の存在で、「彼」は刑務所で亡くなったから自分もそこにいることで一緒にいられたけど、外の世界に出てしまえば、もう「彼」はいない。実在の「私」は釈放後にちゃっかり結婚し(ちなみにお相手は女性)、それなりに生きて病死したようですが、松岡「私」は出所後、あのまま自らの命を断っててもおかしくない気がしました。

 

それにしても23歳って(リプライズ)歌も結構歌えてましたし、めちゃくちゃ将来有望な役者さんだと思いました。それこそもっといろんなミュージカルで見てみたいです。「エリザベート」のルドルフとか似合いそうですが、どうですかね…?あと「ロミオ&ジュリエット」のベンヴォーリオやマーキューシオも似合いそうです。

 

【彼:山崎大輝さん】

これまで名前も全く聞いたことのなかった、本当の意味での「はじめまして」だった山崎さん。相手が松岡さんだったから余計そう感じたんだと思いますが、とにかくデカかった(とはいえ身長180cmなので、ミュージカル俳優さんたちと並べると並サイズなんだと思いますが)手足がすらっと長くて、スーツがよくお似合いでした。立ち居振る舞いもスマートでかっこよかったです!

 

とにかく前半はポーカーフェイスを保っていた山崎「彼」。能面かぶってるのかな?ってくらい、表情が変わりませんでした。カチッと固めた髪型に合わせるかのように、表情も固定されてるみたいでした。

 

それでもあのミステリアスで、ときどき思わせぶりな態度をされるたびに、計算のうちとわかっていても惹かれてしまいそうでしたし、いくら無茶ぶりをされても一生懸命追いかけてしまう「私」の気持ちが、わからないでもなかったです。

 

中盤〜終盤にかけて、場面ごとになぜか人相ががらっと変わってしまうのが怖かったです。前半で記憶に刻み込まれたはずの山崎「彼」の顔と、全く違う表情をいくつも見せてくるため、どれが本当の「彼」(ここでは役柄と本人、両方の意味)なのか、全然わからなくなりました。すごくかっこよく見える時と、(失礼ながら)すごく醜く見えるときと、両方ありました。

 

それまでかっちり固められていた髪の毛から、前髪が一束はらりと落ちたのが、ちょうど事件が発覚しそうになるシーンだったので、髪の毛が演技しとる…!?とびっくり。

 

あと瞳に光(炎)がすごくうまく入るなと思いました。能面みたいな表情なのに、瞳だけらんらんと輝いて見える不気味さが良かったです。

 

後半にあるキスシーンでは、松岡「私」に覆いかぶさってたんですが、そのときの伏し目がちな表情の色気が大爆発してて、心臓が痛かったです(謎)あの色気、出そうと思ってもなかなか出せないぞ…。

 

山崎さんもまだ25歳だそうで。歌はところどころ少し危なっかしい部分があったけど、今回の役がすごくハマってましたし、スタイルも抜群に良いので舞台映えするし、松岡さんと同じく今後の活躍が楽しみです!