およそ6年ぶりに、四季劇場【秋】に「ノートルダムの鐘」が帰ってきた…!
本来は2021年初めにこけら落としで上演される予定だったはずでした。この6年間、横浜や京都、名古屋、福岡など日本各地で上演されてきましたが、都内に戻ってきたのは今回初。いやーお久しぶりです!
京都公演から演出がマイナーチェンジしたと聞いていたので、その演出になってからは初めての観劇でした。
全体的に、よりダークさを増した演出になってたと思います。ただでさえディズニー感が薄めのディズニー作品ですが、より表現が露骨になったという印象でした。
特にフロローの仕草やセリフ回しがかなり強烈になっていて、例えば2幕終盤に牢でエスメラルダに迫るとき、前はそのまま押し倒す感じでしたが、今回はスカートを捲り上げてておぞましさが倍増。襲い掛かってる時間もなんか長くなってたような…。
カジモドに対するフロローの姿勢も、アメとムチの「ムチ」の割合が多めになっていて、最後のあの結末になるのは仕方ないよな…という印象が強くなってたかもしれません。より【ヴィラン】らしくなったと言うのが適切なのかな…?
シーンが持つ意味としては変わらないものの、強烈に「あ、ここ変わってる」と思ったシーンは2つ。
まずはフロローがカジモドに対して「あの女を忘れろ」と詰め寄るシーン。フロローがカジモドをビンタするのは変わってないんですが、その後の細かな仕草がより暴力的になった印象でした。決定的に違ったのはそのあと、「忘れろ」と言われたカジモドが柵(?)から下をぼーっと眺めるような、どこかフロローに対する感情の「よどみ」みたいなものが溜まっていってるような表情をしていて、最後のシーンにつながる伏線として追加したのかなぁと。
もう1つは、フロローの最期のシーン。これは違いがかなりはっきりしていて、以前は
カジモドが縮こまってた背を(骨を砕きながら)伸ばす
↓
フロローはその迫力に気おされたように縮こまる
↓
フロローの背後からカジモドが羽交い絞めにして投げ飛ばす
っていう流れだったはずです。
それが今回は
カジモドが背を伸ばす
↓
フロローが尻餅をつく(だったかな?)
↓
カジモドがフロローの首を片手で絞める
↓
フロローは這いつくばって逃げる
↓
カジモドがフロローの首根っこを摑まえて柵の前に引きずりだす
↓
フロローの背後から羽交い絞めにして投げ飛ばす
みたいな流れになってました。ここではカジモドの暴力性の描写がよりはっきりと見えてました。
ただここまでのシーンでのフロローの暴虐っぷりがアップしてたので、カジモドがこのレベルまでの暴力をフロローに振るうというのはある意味納得でした。
あと万が一カジモド役者さんが小柄な場合でも、フロローが尻餅をつくことでいきなり体格差が生まれるような怖さははっきり出せるようになってたと思います。かなり怖かった&やるせない気持ちになる演出変更でした…。
全体的に、以前の演出の方がもう少し余白があるというか、フロローの描写がもう少しソフトだったので、今回の演出だとより「悪役」としての側面を強くしてる気がしました。ちょっとと説明しすぎな感じはしましたが、どちらが良い・悪いはないと思うので…。刺激的(という表現が適切かはわからないけど)な表現があることで、今作を何度も観ているこちらの感情もぐわっと揺さぶられたのは確かなので、演出のアップデートというのは必要なんだなとしみじみ感じました。
今回観たプリンシパルキャストは、ちょうど2022年5月の横浜公演でも観た人がほとんどでした。各キャスト少しずつのメモ+今回初見だった加藤フィーバスの印象についてメモしておきます。
【カジモド:寺本健一郎さん】
昨年の横浜公演から大きく伸びた印象を受けました。やはりプロの役者さんであっても、同じ役で場数を踏むとここまで変わるんですね…。
正直歌唱力で印象に残る感じは(私には)ないんですが、とにかく目がクリックリしてて小動物的かわいさがあり、そんな彼が皮肉にも「愛」によって最後は「怪物」に変貌してしまう哀しさは、去年と同じくらい強いインパクトがありました。
【エスメラルダ:松山育恵さん】
今回は少し表情が乏しい印象がありましたが、やっぱり声がめちゃくちゃ好き…!キャッツのイメージが強いからか、猫ちゃんのようなツンデレっぽさを感じます。
♪世界の頂上で♪の前、カジモドがガーゴイルを「友達」と呼んで、そんなの馬鹿みたいだ!って自分を責めるシーン。他役者さんのエスメだと「ううん、そんなことない」ってなだめるように言うんですが、松山エスメは「いや、私もあなたと同じように思ってたんだよ!」という感じの、明るいトーンで言うのがすごく素敵でした。
♪いつか♪の時も、あまり弱さを全面に出すのではなく、フィーバスとともに最後まで「明るい夜明けが来ること」を心から信じてるような強さを感じました。だから最期に火あぶりにされる瞬間、初めて彼女が恐怖と絶望の悲鳴をあげるのが耳奥に残りました。
【フロロー:野中万寿夫さん】
旧秋劇場での初演からこの作品を支え続ける1人として、今でもずっと【深化】を続けるお芝居をされていました。
初演の頃は(芝フロローの芝居が濃かったので、その対比というのもありますが)比較的クールなフロローの印象でしたが、この6年間で人間味を増したフロローに変化された気がします。
さらに今回の演出変更によって、あまり同情の余地がなくなったフロローになった気もしています(そもそも同情すべきキャラなのかはさておき)
【フィーバス:加藤迪さん】
あんまりこういうこと言うのもどうかと思いつつ、一応書いておきますが、ここにきて初の日本人役者さんのフィーバスでした。
各フィーバスのデビュー直後のお芝居と比べると、とにかく【セリフの説得力】という意味では随一だった加藤フィーバス。色男かどうかは個人的にはノーコメントなのですが、体格も良くて歌も上手くて、もはやなぜ初演から出てないのか、この6年間キャスティングすらされてなかったのかが謎でした。オーディション受けてなかったのかな…。
初演2人+神永フィーバスは、かっこいいんだけどどこか抜けてる雰囲気もあって、そういうところで「モテるんだろうな」と感じさせられてましたが、加藤フィーバスはあんまりチャラチャラしてなくて、実直な兵隊という印象が強かったです。
【クロパン:吉賀陶馬ワイスさん】
時計になったりジプシーになったり、舞浜行ったり浜松町行ったりで大変そうなワイスさん。「アラジン」も「ジーザス・クライスト=スーパースター」も、サブキャラではあるものの作品に不可欠な役者さんですよね。コッグスワースの片鱗も見せないクロパンのお芝居、さすがすぎました(五体投地)