Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2024.9.30 ミュージカル「ファンレター」マチネ公演:手紙のきみ 愛さずにはいられない

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「ファンレター」東京公演千穐楽&6回目の観劇&My楽でした。

 

2024年のまとめ記事にも書きましたが、この年のMyベスト作品はこちらです。「カム・フロム・アウェイ」もとても素晴らしかったんですが、なにせ1回しか観ておらず、1回きりでいいかな…という感じではあったので。どちらにも出てる浦井さん、作品選びがうますぎる…。

 

「日本統治下の朝鮮が舞台である」という前情報が自分の中で大きすぎて、初見ではその歴史的な部分が自分ではいまいちしっかりつかめなかったんですが、回数を重ねれば重ねるほど、その回ごとにはっとさせられるセリフが違ったりして、この作品自体が「文学」だなぁと感じました。歴史的な部分の知識に関しては、結局全然調べられなかったので、これから勉強します…(反省)

 

これまではわりと劇的な展開のシーンが印象に残ってましたが、この日は1幕序盤の♪誰も知らない♪を歌うセフンとヘジンの切実な気持ちが伝わってきて、あの歌でかなりグッと来ました。ヘジン先生が純粋にヒカル(セフン)の言葉に心打たれて「自分のことを分かってくれる人がいるから、今日も生きられた」と歌うのは、何度も観たからこそ耳に飛び込んでくるフレーズな気がしました。

 

ところで、仮にこの時代の朝鮮が日本の統治下ではなく、セフンが「ヒカル」という名前を使わずに本名で同じ内容の手紙を書いていたら…。ヘジン先生とセフンの関係性はどんなものだったんでしょうね…。よき師弟関係を結べたりしてたのかなぁ。

 

初見では「顔も知らない相手に恋するなんて、今の時代でもあるじゃん?」と思ってたんですが、そもそも「名前を変えて手紙を送らなくてはいけない理由がある時代」というのが前提なので、今の時代とは全く違いますよね(ということにちゃんと気づけて良かったです)

 

この回で思わずうるっときたのは、ヒカルが「消える」ときに歌うフレーズ。木下ヒカルの声に涙が混じってて、いつもとは印象がガラっと変わりました。

 

セリフと歌詞はまるで捨て台詞のようなんですが、♪忘れないで 私なしでは誰からも愛されない♪と歌うその声が震えていました。

 

ヒカルは「愛されたい」と願ったセフンが産んだ片割れで、ヒカルなしではセフンはこれからも愛される幸せを感じられないのではないか?自分がいなくなったらセフンはどうなってしまうのか?と、もしかしたらヒカルなりに心配だったのでは…とも思える歌声でした。

 

そういえばヒカルが初めて赤いワンピースを纏って登場するシーン、歌いながらセフンがヒカルの足元に座り込んで、曲終わりにヒカルがセフンの顔に手を伸ばしかけるんですが、ユンがセフンを呼ぶ声でその動きを止めるんですよね。あれ、ヒカルはセフンに何しようとしてたんだろう…。

 

それにしても、セフン役に海宝さん、ヒカル役に晴香ちゃんをキャスティングしてくれたの、本当に「よくぞ…よくぞやってくれました!」ってなりました(唐突に興奮するヲタク)

 

この回は、木下ヒカルに「どこか隅っこにでも隠れていなさい。今までのように」と言われた海宝セフンが、ずっと「違う…違う…違う…」ってつぶやいててしんどかったですし、木下ヒカルは♪鏡♪のラストで♪できなーーーーーーーい♪って歌い上げた語尾にがなりを入れてて最高でした。

 

しばらく共演はなさそうな気がしてますが(2020年から断続的に共演してたし…)でもまたいつか絶対に共演していただきたいものです。歳の差はあれど歌と芝居の相性が最高なので。

 

そういえばヒカルソロ曲のあと、セフンがヘジン先生に話しかけるとヒカルがそれをたしなめるように無言で圧をかけてたんですが、初日から何回かはセフンはすぐに折れて薬を買いに行ってのが、終盤の3回くらいはセフンが何か言い返そうとしてヒカルを睨み返す(けど結局折れる)という芝居が加わってました。

 

ペンを奪う/奪われるやり取りもそうですが、こういう「自分と戦ってる」やり取りがあるとより見ごたえが増してました。

 

あと♪鏡♪でセフンが「自分が好きだったのは陽射しに包まれたあたたかいヘジン先生だったのに」みたいなこと歌う部分が切なすぎる…まぁ自業自得なんですけど(こら)

 

My楽だったので、7名全員のキャスト別感想を簡単にメモしました。

 

【チョン・セフン:海宝直人さん】
・思えば海宝さんのストプレって観たことがなかったような…(朗読劇はありますが)この作品もミュージカルではあるけれど、果てしなくストプレに近い印象の作品だったので…。

 

どうしたって【歌がとんでもなく上手い】が何より先立って印象に残る人なので、芝居の部分まで注目されにくいのはもったいない気がしています。今回もSNSの感想を見てると、ファン以外の方は浦井さんと晴香ちゃんについて書かれてる方が多かった気がしますが、実年齢の半分の設定のキャラクターを、何ら違和感なく演じる海宝さんもなかなかすごいと思うんですよ…!36歳男性が学ラン来たら普通は事故ります(真顔)

 

私が「ノートルダムの鐘」で海宝さんを観たとき、歌声に惹かれたのはもちろんのこと、当時の感想を読み返すと「魂ごとカジモドに貸したかのような憑依っぷり」について事細かに書いていて、歌と芝居どちらにも惹かれてファンになったんだったなと。ある意味私が海宝さんのファンになった原点(?)みたいなものに、「ファンレター」で立ち返れたような気がしました。

 

・とにもかくにもセフンはずーーーーーーっと泣いてるので、初見から3回目あたりまではなんとなく自分の気持ちも引きずられてつらかったんですが、残り3回くらいは自分の見方が定まってきて、意識せずとも海宝さんの涙に引きずられない見方をしてた気がします(それがいいか悪いかはさておき)

 

・ときどき歌ってる途中で一瞬口調と声色にヒカルが混じるのゾクッとしました。

 

・どうしても爽やかな青年みたいな役が多めなので、今回のようなパッと見た感じは素直そうなんだけど、蓋を開けたらドロドロした感情が渦巻いてるみたいなキャラ、もっとやってほしいなぁ。近しいキャラで言えばそれこそカジモドや「イリュージョニスト」のアイゼンハイムもそんな印象かも…?

 

あともう悪役やりませんか?(圧)お顔立ちがどうしてもやわらかい印象がありますが、それを逆手に取ったらとんでもなく恐ろしい悪役もできそうです(膨らむ妄想)

 

【ヒカル:木下晴香ちゃん】
・思えばいろんな作品と役で晴香ちゃんを観てきましたが、晴香ちゃんはアーニャ(fromアナスタシア)が1番好きかな〜と思ってたのを、ヒカルが光の速さで抜き去りました。

 

 

晴香ちゃん、基本的にどんな役も似合うしものにしてますが、ご本人が若いのにそこまできゃぴきゃぴるんるんしてるわけでもなく、どちらかというとおとなしくてちょっと影が似合う雰囲気もあるので、そういう意味でも今回のヒカル役はドンピシャでした。海宝セフンに合うヒカル、晴香ちゃん以外に全く思いつかないもん…

(強いて言うなら咲妃さんも良さそうではあるんですが、ちょっとかわいらしすぎちゃう気もしてます)

 

・まず何よりも骨格から美人すぎて…!今回はシルエットが演出の要素の1つになってたんですが、シルエットがとんでもなく美しかったです。骨格だけでも「堂々と、美しく、愛される」存在である説得力がありました。

 

 

・人だけど人ならざる何か、という雰囲気もすごくうまく纏っていて、最初に登場するヒカルは性別がなさそうな天使のような純朴さがあるんですが、時が経つごとに「女」になり「闇の中の声」に変貌するのがお見事でした。もちろん衣装の影響も大きいかもしれませんが、それを最大限味方につけてヒカルの変身を段階的に見せていくのは、かなり繊細なお芝居の力が必要になると思うので。

 

・歌も今回さらにパワフルになってました。2幕のヒカルソロ曲はそもそもメロディが難しい上にキーの幅も広いので、初日と最終週の1回くらいはちょっと大変そうでしたが、大きく外すようなことは一切なく、安定感も増してました。これからも引き続きヒロイン無双してほしいなぁ。

 

【イ・ユン:木内健人さん】
・多分次回の「スリル・ミー」にいる(予言)「私」役で(予言)

 

・今回3週間の公演期間の中で、毎回いろいろ試してる印象でした。特に千穐楽に近づくにつれて、歌の部分をあえてセリフっぽくしてたような…。キーパーソンでありながら自分の本音を明かさないキャラなので、難しそうだけどやりがいはありそうな役柄に感じました。

 

・ヘジン先生の「ペンまで奪わないでくれ!」の芝居を受けて、毎回ちょっとずつ違うリアクションをしてたのも印象的でした。

 

【イ・テジュン:斎藤准一郎さん】
・学芸部長!「マチルダ」で万里生さんの代わりに緊急登板されたのを拝見して以来でした。さすが(?)元劇団四季の役者さん、安心安定のクオリティで届けてくれる印象でした。

 

【キム・スナム:常川藍里さん】
・可愛らしいビジュアルでありながら、七人会の中ではかなり熱血キャラの立ち位置で、あのギャップが好きでした。セフンに「先生」って呼ばれてたけど、セフン込みでも1番年下に見えたのはここだけの話です(小声)

 

【キム・ファンテ:畑中竜也さん】
・公演期間中、1番印象が変わった役者さんでした。初日に観たときは、正直あの7人の中で力量に少しだけ差がありそうでしたが(歌もセリフもやや単調に聞こえてしまったので…)千穐楽には「ホントに同じ人!?」レベルで歌や芝居に込める熱量が違っていて素晴らしかったです。

 

【キム・ヘジン:浦井健治さん】
・ちょっとやり過ぎでは?レベルの芝居がとにかくインパクト大でした。「天保十二年のシェイクスピア」では、当時アラフォーながらどうやっても20代後半くらいにしか見えなかったのに、今回は下手したら50代に見えて、役柄が変わるだけであんなにビジュアルを操れるものなのか…と衝撃でした。

 

初日からしばらくは1人だけやや浮いた芝居になってる印象でしたが、千穐楽に近づくにつれて他の役者さんとのバランスが取れてきたなぁと。

 

・どうしても歌声を伸ばしたときにかかるビブラートが私は少しだけ苦手だったんですが(もうこれは個人の好みの域なので…)お芝居は本当に最高でした。


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またいつか「ファンレター」の世界に飛び込める日を願っております…!