Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2024.9.9 ミュージカル「ファンレター」ソワレ公演:あなたが文字で作ったわたし

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※物語のネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファンレター」日本初演の初日を観劇しました。

 

大まかなあらすじとキャラクター名、この時代の朝鮮がどういう状況だったか、という前知識は一応頭に入れて挑みました。

 

好きか嫌いかで聞かれたら、私はわりと好きな雰囲気の作品でした。なんだかミステリー小説を読んだかのような後味で。

 

ただ初見だとなかなかつかみづらい作品でもありました。1人1人のパフォーマンスは素晴らしかったんですが、「日本での上演が決定したときに韓国の方たちが憤った理由」までは、この作品を観ただけでは私には明確にはよくわからなかったというのが正直な感想でした。

 

日本統治化における弾圧の描写が凄まじいのかと思いきや、そのあたりはわりとセリフでの説明が多かった印象です。セフンが「ヒカル」というペンネームを使ったのは、検閲に引っかからないために日本人の名前を使わなくてはならなかったからとか、セフンが家にも留学先にも居場所がない理由も時代背景が関係してはいそうでした。ですが、初見でそこまでしっかりとつかめる知識を、残念ながら私は持ち合わせてませんでした。

 

やはり【韓国で韓国の人たちに向けて上演する】のと【日本で日本の人たちに向けて上演する】というのは、もはや観客側が持ってる知識とそこに付随する想いが全く違っているので、そのままで上演するというのは難しそうだなと感じてしまいました。

 

ズレた例えかもしれませんが、仮に「この世界の片隅に」を【アメリカでアメリカの人たちに向けて上演する】ってなったら、観客は私たち日本人が感じる気持ちとは、また別の感じ方になるだろうと思うので、多分そういうことなんだろうと思います。

 

とはいえ、そこで「あぁ国が違うからわからないよね」と放棄するのは本当に良くないので、これを機にきちんと調べて知りたいと強く感じました。

 

役者が7人しかいないとは到底思えないほどの熱量があり、ミュージカルですがストレートプレイのように、言葉をとても大事にして演じているのを肌で感じました。

 

「紙で手を切るよりも、ペンで書いた言葉でつけられた傷のほうが痛む」というニュアンスの、浦井ヘジン先生のセリフがとても印象的でした。

 

海宝セフンは、どう見ても18歳かそこらのおどおどした青年にしか見えず、さすがFCバースデーイブイベントにて「年齢なんてただの数字」と言い放っただけあるなと(真顔)

 

ストレートプレイ寄りのミュージカルだからか、高らかに歌い上げる系のナンバーはなく、海宝さんにそこを求める人にとってはかなり消化不良なのでは…と。

 

個人的には、2幕中盤〜終盤であそこまで泣きじゃくってすごいことになってる海宝セフンにびっくり。推し2人が擬人化された自らの才能に追い詰められる2024年9月の日比谷、なんだかとんでもないことになっておりました(真顔)

 

ちなみにセフンはヒカルの息の根を止めるため、最終的に自分の利き手をペンで刺すんですが、いつ♪僕の…血はもうない♪って歌い出すかと思いました(やめなさい)そして才能は死んでも自分は生き残る海宝さんと、才能を抱いてもろとも死んでゆく古川さん、解釈一致すぎます(やめなさい)

 

1幕ラスト、ヒカルがどんどんと輪郭をはっきりさせていくシーン。最初はセフンの手紙をヒカルがヘジン先生に持っていってたのが、いつの間にかヒカルが書いた手紙をセフンがヘジン先生に渡す(=スポットライトがヒカルとヘジン先生に当たって、セフンは暗がりにいる)ようになり、ヒカルとヘジン先生が恋人同士のようなダンスを踊るんです。でもヒカル=セフンなわけで、セフンもそこに(ヒカルと対になるように)加わってヘジン先生と踊る瞬間がありました。そのときの、海宝セフンの満足げな表情がすっごく不気味で怖くて…。ただ嬉しくて笑ってるのではない、もっと欲望にまみれた笑顔でした。

 

ヒカルがどんどん暴走するのを見つめる海宝セフンの表情も良くて、オペラグラスで木下ヒカルをのぞいたつもりが、ついついヒカルの動きにリアクションする海宝セフンを見てしまっていました。

 

木下ヒカル、最高です(ガッツポーズ)

今までにない、けれど彼女のハマり役の1つに数えられそうな素敵な役柄でした。海宝さんの片割れ、というのも個人的に最高すぎますし、1年前、アーニャとディミトリだったなんて思えないくらいの変わりようでした。

 

はっきりと「ヒカル」になったとき、セフンと一緒に「あなたは私」みたいな歌を海宝さんと歌うんですが、鏡合わせになった振りつけがすごく素敵でした。

 

カンパニー唯一の女性ということもあるからか、晴香ちゃんの声がいつも以上にミステリアスな響きを持っていて、最初はとても耳に心地良い響きなんですが、ヒカルがどんどん暴走していくと硬質な響きを持っていき、この世のものでないように聴こえてくるのも面白かったですし、そういう表現ができることにびっくりしました。

 

この作品、拍手がほとんど「出来ない」雰囲気があったんですが、2幕後半にある木下ヒカルのソロは、難曲を歌い上げるあまりのパワフルさに、思わず拍手が起こってました。

 

 

それにしても骨格から美人すぎる晴香ちゃん…!影絵のようにヒカルのシルエットを映し出すシーンがあったんですが、横を向いたときにお顔立ちの良さが際立ってて素晴らしかったですし、何より本当に華奢で手足が長くてうらやましい!

 

浦井ヘジン先生、この作品を観た中で1番衝撃的だったかもしれません。

 

浦井さんは「天保十二年のシェイクスピア」と「カムフロムアウェイ」でしか観たことがなく、どちらかというとちょっとおちゃらけたイメージの役者さんだったんですが、浦井ヘジン先生は終始背中を丸めて髪の毛はボサボサ、声にもあまり力がなく、「天保〜」のきじるしの王次の浦井さんが鮮烈に印象に残ってる私としては、あまりに別人すぎて最初「誰????」状態でした。

 

お芝居も非常にリアルで、結核を患ってる役柄のためしょっちゅう咳き込んでたんですが、芝居とは思えない「本当に大丈夫…?」と心配になる咳をしてました…(プロの役者さんだから当たり前かもしれないですが!)

 

カーテンコールでも役が抜けなかったようで、すごくぼーっとしたお顔をされてました。挨拶するときには涙を流されていて、この作品を日本で届けることに対する責任感を、もしかしたら必要以上に背負っちゃってるような印象を受けました。

 

久々に見ごたえのあるミュージカルに出会えた日でした。