Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2024.3.13 ミュージカル「スウィーニー・トッド~フリート街の悪魔の理髪師~」ソワレ公演:復讐は「美味しいパイ」の味!?

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私がミュージカルにハマり始めた頃、劇団四季作品しか観たことがなかったため、いわゆる「有名人が出てる舞台」も観てみたいなと思い、真っ先に候補に挙がったのが当時上演されていた「スウィーニー・トッド」でした。

 

でもどうせ観るのであれば、もう少し明るいお話が観たいな~と思ったので、最終的に「キンキー・ブーツ」日本初演を選んだんです。

 

この決断は今思うと間違ってなかったかなと思いつつ、「スウィーニー・トッド」はその後、今回の再演までなんと8年もかかったので、「観たい!」と思った作品はなるべくその時に観た方が良いなと思いました(ヲタクの教訓)

 

映画版は、ものすごーく昔にDVDを借りて見た記憶があります。ティム・バートン×ジョニー・デップだから見たんですが、とにかく血の量がすんごかったのと、あまりにも救いのない話で「…えぇ…」とドン引き。

 

今回ミュージカル版を見るにあたって、あえて映画版は復習しなかったんですが、よほど映画のインパクトが強かったのか、話の筋はしっかり覚えてました。普段は映画を見ても7割くらいはあらすじ忘れるマンなので(ひどい)当時本当に衝撃を受けたんだろうなと。

 

もちろん舞台なので、映画ほどスプラッターな演出はなく、その点では映画よりも観やすかったと思います。トッドがカミソリで首をかき切るのはしっかり客席から見えますが、そこから血が噴き出るとかはなかったので…。血まみれになる姿をしっかり見せられたのは、2幕後半の1シーンのみかな?

 

ラストにトバイアスが肉をミンチにする機械のハンドルを回すと、ミンチ状になった肉がにゅ~~~~っと出てくるのはかなり悪趣味でしたが、見ていて気持ち悪くなるような演出はそこだけでした(※個人感)

 

楽曲は、映画版を見たときに結構好みだったので、当時サントラをYouTubeで探して聴いてた記憶があって、特にトッドとミセス・ラヴェットが「人肉パイを売ろう!」ってアイデアを思いつくときに歌う軽快なワルツがお気に入りです。歌詞の内容が本当に本当にひどいけど…。

 

どの楽曲もとんでもなく難しそうでしたが、ソンドハイム楽曲をしっかり歌いこなせる役者さんたちを集めたようで、ザ・不協和音のオンパレードでもきちんと楽曲として聴けました(数年前の「イントゥ・ザ・ウッズ」は相当ひどかったようなので…)

 

ミュージカル版のみの楽曲だと、ジョアンナとアンソニーの♪Kiss Me♪(かな?)が、かわいくてユーモラスで、でもどこか狂気を感じるテンションで印象的でした。恋に浮かれる2人はかわいらしいんですが、第三者の目から見るとちょっとホラーな雰囲気も感じました。

 

復讐に横恋慕(という言い方は可愛すぎますが)、貧困、カニバリズム、暴力、血、殺人などなど、とにかくこの世のありとあらゆる不幸を煮詰めたような作品で、登場するキャラクターも全員ぶっ飛びすぎてて一切誰にも共感できないんですが、なぜか観劇後の気分はそれほど重たくなりませんでした。「内容ヤバかったけど、なんか面白かったわ~」で帰ってこられる、結構独特な作品かもしれません。

 

今すぐにリピートしたい!という気持ちには、個人的にはならなかったものの、次回再演時にも確実に観たい作品になりました。


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キャスト別感想は分けて書くほどでもないので、印象的だった方をそれぞれ箇条書きで少しずつメモしておきます。

 

スウィーニー・トッド役の市村さん。もはや私が感想をどうこう言うような役者さんではないよな…と改めて感じる迫力でした。あの年齢で、あの役をシングルキャストで、日によっては1日2公演こなしてることが信じがたいです。

 

歌は多少不安定になる部分もあるものの、やっぱり年齢を考えたときにあの声量が出せることが本当にすごいです。そしてあの独特の存在感は、他の役者には決して真似できないものだと思います。次期トッド役は責任重大だろうなぁ。

 

・ミセス・ラヴェット役の大竹しのぶさん。「GYPSY」でも思いましたが、正直決して歌がとてつもなくうまいわけではないのに、そこが全く気にならなくなるほどにお芝居のクオリティが高すぎました。

 

あまりにも自然、というか、大竹さんの「素」の部分をその役の要素として溶け込ませるのがものすごくうまいんだと思います。

 

今回観劇してみて、観劇後の気分が重たくならなかったのも、彼女のパフォーマンスによるところが大きいように感じました。彼女の一挙手一投足、セリフ回しに客席から何度も笑いが起こってたので。

 

あと本当にかわいらしい方ですよね…!それこそ市村さんと同じく、もはや大御所と言われる年齢のはずなのに、まるで少女のような愛嬌とか雰囲気をまとっていらっしゃる、稀有な役者さんだと感じました。

 

・アンソニー役の山崎大輝さん。「スリル・ミー」でしか観たことがなかったので、浮かれポンチな役柄はわりと新鮮でしたw「彼」と同じ役者さんとは思えないほど、キャラクターが真逆すぎて面白かったです。

 

でもアンソニー役もすごく合ってましたし、「レ・ミゼラブル」のマリウス役もできそうなノーブルさも感じました。

 

歌唱はときどきちょっと不安定になるかな?と思ったものの、特に大きく崩れることもなかったので、回を重ねていけば恐らくもっと良くなっていきそうでした。

 

ジョアンナ役の熊谷彩春ちゃん。「GYPSY」ぶりなので久々に舞台で拝見しました。相変わらず華奢でお人形さんのようなビジュアルに、美しいソプラノボイスを響かせておりました。

 

「閉じ込められた美しい小鳥」というジョアンナのイメージにもぴったりで、純白のワンピースを纏った姿はまるで天使。あのゾンビみたいなメイクをしてるのにかわいらしいって、もはや才能では???

 

・ターピン役の上原理生さん。き、気持ちわるううううううううううううううううう(震)

 

「ターピンが、養女として育ててきたジョアンナと結婚しようとする」のは、舞台を観ながら「あ~そんなエピソードあったな」と思い出したんですが、映画版のターピン判事よりもはるかに舞台版ターピン判事に嫌悪感を持ったのはなんでだろう…。映画版にセルフ鞭打ちのシーンはなかった気がするんだよな…。あれは本当に気持ち悪かったです…。

 

(ターピンが「ジョアンナアアアアアアアアアア」と叫びながら、己の欲望を打ち消そうとして、上半身裸で自らに鞭を打つというド変態シーンがありました)

 

ただターピンが正真正銘のド悪党じゃないと、トッドの復讐に対する観客の気持ちが「まぁ復讐するのはしょうがないか」にはならないと思うので、それを徹底した上原さんが素晴らしいということで…。いや気持ち悪かったけど…。

 

・トバイアス役の加藤諒さん。トバイアスは映画版では子役さんが演じてましたが、さすがに舞台版は大人が演じるんですね…(倫理観的にそりゃそうか…と思うとともに、映画版で演じた子役さんがすごすぎる…)

 

ちょっと歌詞が聞き取りにくい部分もありましたが、「子供の役を大人が演じる」違和感はほぼなくて、成人男性なのにあの愛らしさを出せるのってすごいと思います。

 

加藤さんも唯一無二の存在感があるので、映像よりも舞台で映える役者さんだなと、「新ハムレット」と今作を観て思いました。