Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2021.9.2 DISCOVER WORLD THEATRE「ウェンディ&ピーターパン」ソワレ公演:考えてみよう 楽しいことを

やっと2021年9月の観劇記録までたどり着きました~!相変わらず遅筆なので、ずっと追いつかないままな気もしている今日この頃です。

 

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「ピーターパン」の物語を、ウェンディの視点から描くというコンセプトに興味を持ったのと、「堤真一さんのフック船長を観る以外の選択肢ある?????」ということで、観てきました「ウェンディ&ピーターパン」。

 

www.bunkamura.co.jp

 

何が良かったって、とにかく舞台装置と装飾が超絶好みでした。3階席からの観劇だったため、正直そこまで細かくは見えなかったんですが、上演前に配置されていた舞台セットが「これこの後セット変わるの?」ってくらい、かわいらしいドールハウスのようなウェンディたち姉弟の寝室で、始まるまでまじまじと眺めておりました。例えるならシルバニアファミリーの人間サイズ版みたいな印象。

 

ネバーランドのセットもなかなかおしゃれで、巨木がそびえ立つ広場、ピーターやロストボーイズの住処、どちらもよく作りこまれていました。そしてびっくりだったのが、フック船長が持つジョリー・ロジャー号。舞台裏のどこにそんなデカい船がおさまってるんです!?と思うくらい、わりと立派な海賊船が舞台奥から出てきたのには驚きでした。

 

「ピーターパン」の物語をウェンディ視点で…という点は、正直あまり感じられませんでした。確かによく知られている映画版では、ウェンディはフック船長とは戦っていないですし、タイガー・リリーやティンクと徒党を組むなんていうのもなかったですし、ウェンディをかばってタイガー・リリーが死ぬ展開もなかったので、「女の子キャラ」に比重を置こうとしているような意図がありそうでした。

 

ただ「ピーターパン」の話って、そもそもウェンディ視点で描かれてなかったっけ…?(今さら)と、観ながら思っていて、特に新しさを感じる部分はありませんでした。1幕・2幕ともに、やや中だるみを感じるシーンはありましたが、総じて観て良かったです。

 

好きなシーンが2つありました。

 

1つはフック船長がなぜピーターを追いかけまわすのか、その理由を吐露するシーン。どんどん老いていくフック船長とは違い、ピーターはいつまでも子供のまま。そんなピーターを見てフックは、「お前の若さがうらやましい。挑戦したり失敗できる時間があるお前がうらやましい」みたいなニュアンスのセリフを発していました。

 

子供のころはあまり意識することもないけれど、大人になれば否が応でも結果を求められたり、失敗を責められたり、何度も同じ失敗をすることは決して許されなかったり、「求められるもの」に対して「それを完璧にするまでの時間」があまりにも少ない。だからフックが永遠に子供のまま、時間をいくらでも持っているピーターをうらやむ気持ちはわかる気がしました。

 

ただピーターは「永遠に子供」なので、「成長」もせず(身体的に、ではなく人として)、いつまでも遊んで暮らすという運命。それはそれでとても不幸なことなのでは…と思います。

 

(純粋に不思議なんですけど、ネバーランドではピーターやロストボーイズは年を取らないのに、フック船長やスミーたち海賊は年を取るのね…?)

 

2つ目は、ピーターがウェンディに、自分の出生の秘密と、ロストボーイズの秘密を話す場面。ピーターは(おそらく生まれてあまり年数が経たないうちに亡くなって)ネバーランドに行き、しばらくして母親に会おうと思って家に向かうと、そこには新しい子供(おそらくピーターの弟か妹)を抱いて笑う両親の姿があったから、そのままネバーランドに戻ってきたそう。それを聞いたウェンディはピーターがかわいそうだと言いますが、ピーターは「両親が笑っているんだから、それはとても幸せなことだ」と。

 

そしてロストボーイズも、実はみんな亡くなった子供たちで、いったん夜空に浮かぶ星になった後、遺された家族が哀しみを忘れて心から笑顔になれた瞬間に、星からネバーランドに子供の姿で落ちてきて、彼らはそこで幸せに暮らすそうです。

 

「亡くなったトムのことを忘れたくない」と言うウェンディに、「トムのことを忘れるんじゃない。トムを失った悲しさを忘れるんだよ」と返すピーターの言葉がグサッと刺さりました。大切な人を失って悲しむのは当然のことですが、いつまでも悲しんでいると、きっとその人も浮かばれないんだろうな…。きれいごとかもしれないけれど、遺された人が幸せに笑って暮らすことが、何よりの供養になるんだろうなと思いました。

 

キャスティングはことごとく全員ハマってたと思います。各々のキャラクターの魅力がはっきり伝わってきました。ジョンとマイケルが完全に声変わりした成人男性だったのは、はじめは違和感あったけど、黒木華ちゃんがウェンディ役な時点で仕方ないような気もするし…。

 

印象的だったキャストの感想を少しずつだけメモ。

 

ウェンディ役の黒木華さん。

売れっ子役者さんですが実はあまりたくさん見たことはなくて、私の中では今でもドラマ「リーガルハイ2」のヒッピー弁護士なんですけど、とにかく声がはちゃめちゃに良かったです。マイクを使っているとはいえ、ぼそっとつぶやくセリフもはっきりこちら(3階席)まで届いてましたし、声での感情表現がとにかく上手で、表情を見ずとも感情がしっかり伝わってきました。

 

ビジュアルは、ピーターが言うセリフにもあった通り「涼やかな顔」で、実年齢に不相応な幼さを感じました。ウェンディがフックに無理やり着せられるブルーのドレスがすごく似合ってたなぁ。ぜひ他の舞台でも見てみたい役者さんになりました。

 

ピーターパン役の中島裕翔さん。

彼は歌って踊れるジャニーズですが、私の中では生田斗真さんや風間俊介さんのような「ジャニーズの中の正統派俳優」のイメージが強いです(とはいえ「半沢直樹」くらいでしか見たことないんですけど)いい意味でジャニーズらしい派手さがなく、堅実なお芝居をされる良い役者さんだなと思っています。

 

ピーターパンを大人の男の役者さんが演じるのは、なかなかハードルが高いのでは思いましたが、無邪気さと陽気さの中に、いびつな感情を持つ様子が見え隠れして、単純にかっこいいとか、素敵だとは思えないピーターパンでした(※褒めてます)一筋縄ではいかないというか。あのテンションを常に保つために、どこかで心を殺してるんじゃないかと思う瞬間がいくつかあって、一見楽しそうに生きているピーターにも、彼なりに悩んだり思うところがあったりするんじゃないかと思えました。

 

ちなみに「あ、やっぱりアイドルなんだなぁ」と思ったのは、1人だけやたらフライングがうまかったところと、1人だけやたらダンスが軽やかだったところ。笑

 

ティンカーベル役の富田望生ちゃん。

「ピーターパンのことが大好きで、ウェンディを目の敵にするツンデレな妖精」というキャラクターはそのままに、パステルピンクの原宿ファッションに身を包み、口を開けば「クソガキ!!!!」だの「病む」だの、信じられないくらいの口の悪さでした。笑

 

とにかく美味しい役どころで、「みんなが知ってるティンク」に寄せるというより、ティンクのキャラを富田望生ちゃんに寄せた感じ。

 

ちなみにフックに刺されたティンクを、ピーターの呼びかけで会場にいる私たちが拍手でよみがえらせるっていう、まるでデパートの屋上でやるヒーローショーの一幕のようなシーンがあったんですが(笑)、「うるせええええええええええええ」って言いながら目覚めたので爆笑しましたw

 

スミー役の玉置孝匡さん。

役者さんが、というよりスミーがかわいかった…。フックに恋、の一歩手前くらいの感情を持っていて、何かにつけて「船長~船長~」って絡みに行く姿にほっこりさせられました。恋じゃなくて、ただ一緒にいたいんだろうな、というあのすれすれの感情表現が素敵でした。

 

そしてフック船長/ミスター・ダーリング役の堤真一さん。

声が渋くてかっこよすぎて耳が…耳があああああ(真顔)ダンディすぎるあの声を全身で浴びてきたので寿命が延びました。テレビで聞くよりも深みがあるというかコクがある声でした(謎)

 

堤さんも黒木さん同様、声での感情表現が素晴らしく、フックとダーリングでの声色の違いや、フックの冷酷な面と人間としての悲哀を感じる面、それぞれでの声の使い分けが聞きごたえありすぎました。堤フック船長に「ハニー」って呼ばれたい人生だった(ウェンディがそう呼ばれてたので)

 

カーテンコールがめちゃくちゃ楽しくて、出演者が出てきてお辞儀した後に、みんなで踊って楽しく終わり!でした。なぜか銀テープまでぱぁーん!ってなったのは笑っちゃったけど、のそのそと踊る堤さんの貴重な姿も見られたので良かったです…!!