Der Lezte Tanz

観劇、映画鑑賞、読書のキロク。たまにひとりごと。

2020.11.28 ミュージカル「NINE」:彼の創造の源は愛

地味に楽しみにしてた「NINE」。


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映画は、フェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」も、ロブ・マーシャル監督の「NINE」も、長らく見てみたいと思いつつ、未だ見たことがありません。

 

なぜか「NINE」の楽曲は、ケイト・ハドソンが歌い踊る映画版オリジナルの♪Cinema Italiano♪と、ファーギーが歌う♪Be Italian♪の2つだけは知っていて、どちらも結構好みでした。

 

映画ではダニエル・デイ=ルイスが演じていた映画監督・グイドを城田さんが、演出を「ジャージーボーイズ」「天保十二年のシェイクスピア」「VIOLET」などを手掛けた藤田さんが担当。映画を見ていなかったため、特にイメージもついてなかったですし、何より藤田さんの演出は、今までいくつかの作品を観てきて好きだったので、そういう意味でも楽しみにしてました。

 

以下、全体的な感想です。

 

まず、こんなに内省的な話とは思わず、だいぶ困惑しました…。完全にグイドの脳内に投入されていた2時間半。物語はほとんどあってないようなもので、新作のアイデアが浮かばないグイドの元にたくさんの女性が来ては去り…といった流れでした。

 

ねじまき鳥クロニクル」みたいに「お話が全くわからん!」ではなくて、「グイドの気持ちが全然わからん!!」でした。主人公にあそこまで共感できなかったの、観劇趣味を始めてから初だった気が…。

 

グイドは、いくらビジュアルが城田さんでも、あれでは愛想尽かされちゃいますね…。仮に私がルイザだったら、確実に1幕途中でグイドのこと見捨ててます(短気)(というか、そもそもグイドと恋に落ちない気が)

 

演出は、藤田さんらしいな~と思う箇所が多々見受けられました。舞台上でカメラを操り、リアルタイムで役者さんを写したり、客席降りができないからか、代わりに舞台上にいる役者さんがお客さんと絡む時間を設けたり、客席の様子が映るような半透明の幕(?)を使ってその幕に字幕が映るようにしていたり。これ「ジャージーボーイズ」や「天保〜」「VIOLET」でも見たなぁという仕掛けを使ってました。真ん中の大きな盆舞台も、「ジャージー・ボーイズ」っぽかったですし。人によって解釈変わりそうですが、あそこはグイドの脳内なんじゃないかと思いつつ観てました。グイドの、とりとめのない思考の迷宮に放り込まれたような気分で終始観ていたので…。

 

シーンとして好きなところは結構ありました。

1番意外性があったのは、カルラの登場シーン。そのシーンの前で、セットにあるソファや棚に、上から垂らしたピアノ線がくっついていたため、「なんで?」って思ってたんですが、カルラが舞台下(奈落)から登場すると、家具がピアノ線に吊られてふわ~っと浮き上がる仕掛けになってました。

 

楽曲はおおむねBW版(=映画版?)を踏襲してた…のかな?開幕直前に、♪Cinema Italiano♪がカットされたと聞いてちょっとがっかりしたんですが、実際に見てみたら、確かにあの流れのどこに入れるつもりだったんだ…って思うくらい、入る余地がなかったです。むしろ当初はどのシーンに入れてたのか知りたいです。

 

 

以下、キャスト別感想。

 

【グイド:城田優さん】

・心の中に9歳の少年の自分を残したまま、身体だけ大きくなってしまったグイド。城田さんって、こういう「成長しきれていない大人」の役がすごくハマりますよね。「ピピン」や「ファントム」でも同じことを思いました。

 

・グイドが女性に翻弄されるお話なのかと思ってましたが、城田グイドだとグイドがすべての中心で、周りの女性たちが人生まるごと翻弄されちゃってる印象でした。

 

・グイドは呆れるほどどうしようもないキャラクターなんですが、弱ってる姿を見ると思わず手を差し伸べたくなるオーラを放ってて、周りの女性陣が離れられなくなっちゃうのはよくわかりました。庇護欲をかきたてられますね…頭よしよしってしたくなる(けど背伸びしても多分城田さんの頭のてっぺんに届かない)(身長158cmなので)

 

・個人的にグイドは好きになれないけど、映画を作るためのアイデアを話すシーンのキラキラとした表情は、男としてというより人間として非常に魅力的に見えました。女たらしというより、人たらし。

 

・映画だとダニエル・デイ=ルイスが演じてるのに、城田さんじゃ若々しすぎない?って思ってましたが、おひげビジュアルでなるほどな~と。おひげも似合ってたので、どこからどう見てもイタリアの伊達男でした。きっとご本人はあんまり言われたくないと思うんですが、彼がハーフであることは、強力な武器の1つだよなぁと改めて思いました。

 

・歌は、一部シーンで披露していたオペラ風の歌唱にびっくり。訓練すれば本当にオペラ歌えちゃいそうな迫力でした。

 

【ルイザ:咲妃みゆさん】

・劇中登場するキャラクターの中では、唯一ルイザには何となく共感できました。というか、いくら仕事のためとはいえ、夫婦のプライベートをそのまんま思いっきり映画のプロットに使われたら腹立つわ…。クライマックスでルイザがイタリア語でがんがんまくしたてて、グイドにブチ切れる爆発っぷりには、正直スカッとしました。

 

・思いのままに感情をぶちまけるときの咲妃さんの歌唱がとても好きなので、「シャボン玉〜」のお佳代ちゃんみたいな、激情的な役柄でまた見てみたいです。

 

メイン2人以外は簡単に。

 

・カルラ役の土井ケイトさん。個人的には「天保~」の時の役の方が好きでした。カルラは、グイドが自分の方を見てくれないってわかると死のうとする面倒な女性で、でも土井さんはビジュアルが強めなので、あまりそういう風には見えませんでした…。

 

・1番インパクトがあったのは、屋比久知奈ちゃんのサラギーナ!メインの登場時間としては、ほんの5分あるかないかでしたが、グイドの人生をまるっきり変えてしまったキーパーソン。グイドにとっては母の存在と同じくらい大きくて、2幕は役としては一切登場しないんですが、セットの後ろの方で、グイドのお母さんと同じ立ち位置でグイドを見下ろしてました。

 

これまでの屋比久ちゃんのイメージとは真逆の、本能のままに欲を貪る娼婦。他の俳優さんに比べるとかなり小柄なので、ビジュアルだけだと舞台映えはあんまりしない気がしましたが(お顔もとても小さいので、あのボリューミーなウィッグにお顔が埋もれてましたし…)、身体と表情をめいっぱい使った妖艶なお芝居と、惹きつけられるパワフルな歌唱が素晴らしかったです。

 

・ラ・フルール役の前田美波里さん。いい意味で年齢に全くそぐわない美しすぎるスタイルで、かなりインパクトがありました。彼女がメインになるシーンが、いるのかいらないのかはちょっと謎でしたが(個人的にはいらない派)すらりと伸びる美脚を思わずまじまじと見つめてしまいました。

 

・リトル・グイド役の大前優樹くん。去年の「ファントム」でも少年エリック役で見ていましたが、出演時間としてはこちらの方が長かったような?美しすぎるボーイソプラノに心が洗われました。ところでこの演目、ただでさえ難解なのに、子役さんたちにはどうやって説明してるんだろう…サラギーナとのシーンなんて特に説明しづらそうだよなぁと、その辺りちょっと気になりました。

 

グイド役を演じられそうなのが、今のミュージカル界だと城田さんくらいしか思いつかないので、再演がまた城田さん主演だったら行こうかなと思ってます。「ファントム」の時みたいに、彼自身が演出を手掛けても面白そうです。