ディズニー作品の中でも、比較的マイナーに分類されるであろう「ノートルダムの鐘」。私の周りのディズニー好きでも、「あれ見たことないんだよね」という人が結構います。私も幼いころに見た時は全く良さがわからなかったけど、楽曲自体はとても好きでした。物語自体は大学生になって改めて見てみたらめちゃくちゃ良かった。何度見ても最後必ず泣いちゃいます。
「レ・ミゼラブル」の作者、ヴィクトル・ユゴーが書いた、パリのノートルダム寺院で巻き起こる愛憎劇が原作となっています。原作は読書家でも読むのがキツい長さとややこしさだそうで、私は一度もチャレンジしたことはありません!
舞台は14世紀末のフランス・パリ。
生まれつき醜い容姿を持った青年・カジモドは、幼い頃からノートルダム寺院に閉じ込められて育ちます。
カジモドは、育ての親である判事のフロローから「お前は醜いから人目に触れてはならない」と厳しく言いつけられ、毎日鐘つきの仕事をして、寺院から1歩も出ずに暮らしています。
ところがある日、カジモドは寺院前の広場で行われるお祭りにどうしても行きたくなり、フロローからの言いつけを破って生まれて初めて外に飛び出します。
そこで彼が出会ったのは、自由を愛する美しいジプシー、エスメラルダ。
エスメラルダはカジモドに偏見の目を向けることなく優しく接し、カジモドはそんな彼女に恋をします。
が、一方でフロローも、自分とはまるで違う世界で生きるエスメラルダに歪んだ恋心を抱き、いつしか彼女を自分のものにすることばかり考えるようになります。
さらにフロローの命令下で働く寺院の警備隊長・フィーバスも、エスメラルダに恋をします。
カジモド、フロロー、フィーバスそれぞれがエスメラルダに心を寄せる中、フロローはエスメラルダを手に入れるため、とんでもない行動に出ます。
果たしてカジモド、フィーバスは、エスメラルダをフロローの魔の手から救うことはできるのか…。
…というのがディズニーアニメ映画版のあらすじです。
このディズニー映画版と原作の要素を混ぜ合わせたのが、ミュージカル版「ノートルダムの鐘」です。おおよそ物語の流れは同じですが、出てくるキャラクターの設定がやや違っています。そして結末がまるで変わってしまっているため、映画版のつもりで見ているとやや痛い目に遭うかもしれないです…(友人がそれで大ショックを受けていた…)
元はアメリカの地方公演で上演されたのですが、ブロードウェイで公演するにはあまりにも重厚すぎる、そして暗すぎるということで、残念ながら地方公演のみで幕を閉じたようです。
ただしCDは発売されたため、当時発売と同時に配信でサントラを購入しました。
映画で使用されていた楽曲に、ミュージカル版の新曲がいくつも追加され、どの曲もとても素晴らしいので、ぜひとも劇団四季で上演を…と思っていたらなんと2016年末より上演決定。観劇当日までものすごく楽しみにしていました。
いやー重たかった。
でも本当に素晴らしい「人間賛歌」でした。
「アラジン」や「リトルマーメイド」は豪華絢爛でキラキラしててひたすら楽しくて、言い方はあまり良くないですが、現実逃避にはうってつけの作品です。
一方「ノートルダムの鐘」は、現代社会にも通じる人間の素晴らしさ・醜さに観客も直面する作品。見ながらいろいろなことを考えさせられました。
特に冒頭とラストの歌の中で、観客に対して投げかけられる
「答えてほしい謎がある。人間と怪物、どこに違いがあるのだろう?」
という問いかけが、ぐさりと心に刺さりました。
キャストは、「最初に見るならこの役はこの方で」と、勝手ながら願っていた方ばかりだったので、この週のキャストが発表された時は本当にびっくりでした。
特にカジモド役は、あまりにも身体的負担がかかるため、1公演ごとに役者さんが交代するシステムが取られており、希望の役者さんで見られるかどうかは、本当に運任せでした。
そんなカジモド役、この日は2016年秋に「アラジン」で拝見した海宝直人さんが演じていました。ちなみに海宝さん、「アラジン」に引き続き、劇団四季の役者ではないけれど、オーディションにてこの役を勝ち取ったそうです。やっぱすごいなこの人。
もうあっぱれとしか言いようがない完璧なカジモドでした。
誰かの演技を見てあれほど衝撃を受けたのは、この時が初めてでした。
キラキラハンサム王子様なアラジンとは真逆の役でしたが、これが本当に見事なまでの憑依っぷり。「あんなかっこいい人が醜い役なんて出来るのかな~」と思っていたのですが、アラジンの面影がどこを探しても全くなくて、海宝カジモドが登場するたびに(うそでしょ……)と。
ミュージカル版のカジモドは登場の仕方がとても凝っていて、説明すると長くなるので省きますが、要するに「舞台上でカジモド役に変身する」という演出方法がとられています。なので、登場したときは普通の青年なのですが、衣装やメイクを舞台上で身につけ、さらに顔をぐにゃりと歪ませて腰を低く曲げることで「カジモド」へと変身していました。
そして声も、つぶれてしゃがれてしまったような声でセリフを発して、歌になるととたんに美声に切り替える、というおよそ人間離れした演技を、劇中ずっとこなしていました。「演技がうまい」というのを通り越して、カジモドに自分自身の身体を貸してしまったような憑依っぷりで、見ていて怖くなるシーンもありました。
カーテンコールでも、最初どこか呆然とした表情だったのが、抜けてた魂が徐々に戻ってくる感じで、1公演ごとに交代とはいえ、相当しんどい役柄なんだろうな…と感じました。
正直アラジンよりもカジモドのほうが何倍も素晴らしかったです。これをきっかけに私は海宝さんのファンになったし。
カジモドの育ての親であるフロローは、「美女と野獣」の悪役ガストン、「ライオンキング」の悪役スカーを演じていた野中万寿夫さん。拝見するのは3度目で、また悪役でした。笑
そういえば野中さん、「アラジン」のジャファーにもキャスティングされてるけど、まだ1度も登場されてないんだよな~いつ演じるのでしょうかね。こうなったらディズニーヴィランズ制覇してほしい。
映画版フロローのねちねちした厭らしさはあまりなく、結構あっさりしたキャラクターとして演じているなぁと感じたのですが、そのポーカーフェイスっぷりが、逆に「何を考えているのかよくわからない」恐ろしさと不気味さを漂わせていました。
カジモドに対しては育ての親というより「先生」のようなスタンスを取っている印象でした。人間が持つ欲望に自分が負けてはいけない、と教えていたはずなのに、エスメラルダとの出会いをきっかけに自らが欲望の渦に巻き込まれて行ってしまう過程を、丁寧に演じられていました。
美しきヒロイン、自由を愛するジプシーのエスメラルダ役は岡村美南さん。
最終オーディションの写真が出た時に、「この方が受からなかったら絶対におかしいでしょ!!!!」と思ってました。なので合格された時も「そりゃ当然でしょ!!」と思ってました。当時岡村さんの歌すら聞いたことなかったのに。笑
衣装もメイクも身に着けていないオーディション時の姿でも、そのまんまエスメラルダを演じられそうなほど、キャラクターにぴったりの俳優さんです。
実際の舞台上ではもう本当にエスメラルダそのものでした。「アラジン」のジーニー役を演じられている瀧山さんのように、「この方はこの役にめぐりあうために役者さんを続けられてきたのでは?」と感じるほどのはまり役だと思います。
映画版のエスメラルダよりも母性が強く感じられ、カジモドに対しては「母」のような接し方をされるなという印象。弱い立場であり母を知らずに育ったカジモドを、慈愛に満ちた表情で見つめている場面が多かった気がします。
初見で印象深かったのは、この3名でした。
というよりあまりに濃密な作品のため、この他のキャラクターまで目と気持ちが回らなかったのが正直なところです。
「ノートルダムの鐘」はこの先何度も見ることになる演目ですが、この日のこの公演が、今でも1番印象深い回として心に深く刻まれています。